第13章

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一応人気のない所までは我慢したが、ここに来て羞恥に耐え切れなくなったようだ。 しばらく亮はそのまま立ち尽くしていたが、にやける裕幸に気づくと、訝しそうに見返してきた。 「…なに?」 「いや、だってさぁ。つい一年前の亮さんなら、手ぇ繋いで、ってお願いしたら、にっこり笑って手、差し出してくれてたよ。今は一応、曲がりなりにもオレと付き合ってる、っていう自覚があるんだなぁ、と思って」 甲斐のないアプローチを何年にも渡って続けていたときのことを思うと、目覚しい変化だ。 堪えようもなく、口元が緩んでしまう。 我ながら上機嫌で自転車の鍵を外していると、少し離れたところで亮がぽつりと呟いた。 「…乱暴に振り払っちゃったから、怒られるかと思った」 しゃがんだまま仰ぎ見ると、罰が悪そうにこちらを見下ろしていた亮と目が会った。 自転車を引いて亮の横に並び、色素の薄い目を覗き込むと長いまつげが揺れる。 「怒った方がよかった?」 尋ねると、無言で頭を振る亮は何だかいつもより幼く見える。 薄手のコートをまとった華奢なからだは少し寒そうで、抱きしめたくなるのぐっと堪えた。 「今日、風冷たいよ。続きは歩きながら話そう」 東風に乱されたやわらかい髪をそっと直して促すと、亮は撫でられた頭を手で押さえた。 「またこういうことをする…」 「え?」 「何でもない。行こう」 いつもは落ち着いた年上の恋人に、拗ねた目を見せられると、それだけでどうしようもなく胸が騒ぐ。こういう関係になる前までは人前でもそこそこ過激なスキンシップも許されてきたので、つい色々したくなってしまったが、ここで機嫌を損ねられたらまずい。 今日はこの後、四月に引っ越すことになった、亮の新しいアパートを見に行くのだ。 契約上は四月からの入居なのだが、先日家主に挨拶に行った際に、ついでに鍵を渡されたらしい。前に住んでいた住人が退去し、もう掃除も済んでいるので、好きに使って構わないそうだ。 いつもより気持ち早足で歩く亮の後を追いかける。駐輪場から出て開けた大通りに出ると、陽光が降り注ぎ、幾分か暖かく感じた。 亮の固く引き結んでいた唇も少し緩んだように見え、ほっとして横に並んだ。 「亮さんのアパートって、ここから歩いて行ける距離なんだよね?」
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