第13章

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「分かってる、ごめん」 謝ると、首を振って亮は前を向いた。真っ直ぐに前を見つめる凛とした横顔をじっと見つめてみても、つくづく何を考えているのか全く検討もつかない。 裕幸の両親に改めて向かい合ったときも、亮はまるで感情の読めない顔をしていた。 本人がいうには、かなり緊張していたらしいのだが、とてもそうには見えず、亮の人となりを知らない両親は完全に迫力負けしていた。 ーーー長谷川亮です。市立図書館の司書をしております。 リビングに通された亮は持参した手土産を渡すと、直立不動で名乗った。 その日亮は、少しでも両親に安心感を与えられるようにと、珍しくスーツを着ていた。しかし着慣れないスーツに身を包んだ亮は、当人の思惑とは裏腹にいつも以上に浮世離れしていた。 色素の薄い瞳は微塵も動揺を映し出さない。落ち着いたトーンの口調と相まって、交際の報告に来たという甘酸っぱいシチュエーションは粉々に霧散した。 ーーーえぇと、いや、そんな固くならないで。まずは座ってください ソファを勧める父も知らず敬語になっていた。着飾ることなくここまで純粋に見目の整った人間と、日常生活で遭遇することはまずない。 裕幸にとって当たり前すぎて、前もって父に伝えるのを忘れたことを不憫に思ったほどだ。 ーーーガテン系じゃなかったのか…… 偏見に満ち溢れた父の失礼な独り言は、幸いにして亮には聞こえなかったようだ。 ーーー…大切な息子さんと、このようなことになってしまい、本当に申し訳ありません ソファに浅く腰を下ろすなり頭を下げた亮に、父は慌てて手を振った。 ーーーいやいやいやいや、えぇと、聞いてますよ。うちの倅の方がずっと片想いしてたんだって。ご迷惑だったんじゃないですか? ーーー……いえ、そんなことは 醒めた美貌をぴくりとも動かさず、その上言葉数の少ない亮と世間話が弾むはずもない。 元々寡黙な亮はその日、いつも以上に無口だった。両親には全く気づいてはもらえなかっただろうが、亮は本人曰くかなりあがっていた。
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