第13章

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ただ知っていてくれるだけでよかった。そばに居て、何も否定せずに聞いてくれたから。それだけで、裕幸には大きな救いだった。 だけど言いかけた反論を裕幸は飲み込んだ。 きっと今裕幸が訴えれば、亮は全て引っ込めてしまう。そうだね、とやさしく微笑んで、亮自身の悔恨なんて、なかったことにしてしまう。 亮より遥かに年上の、裕幸の両親にだからこそ言える懺悔を遮りたくない。 ーーーたまたま事情を知った、すぐそばに居た大人としてあのときの僕の判断は、間違っていたと思っています。あなたたちはこんなにも温かい家族で、裕幸くんはあの頃から強い心を持っていて、事実を聞かされても、真っ直ぐに受け入れることが出来たはずだった。どんな譴責も甘んじて受けます。本当に申し訳ありませんでした 細い首をさらして俯く亮に、裕幸はかける言葉がない。 裕幸では、きっと何を言っても届かない。 父と母はうなだれる亮をやさしいまなざしで見下ろしていた。 少しためらってから、二人がけのソファに座っていた母が亮の前に進み出て膝をついた。 亮の肩に手を置いて、穏やかに声をかける。 ーーーねぇ、長谷川さん。それは結果論じゃない。この子が、自分とそっくりな男と私がこっそり会っていることを知った時点では、あなたには何の判断材料もなかった。この子の父親が誰なのかも分からないし、私たちが何をどこまで知っているのかも分からなかった。それに…えぇと、長谷川さんって今いくつかしら? ーーー二四です ーーーじゃあ、あのときあなたは、七年前だから…まだ大学生になったばかりぐらいかしら。それこそまだ子どもみたいなものじゃない。とつぜん見知らぬ小学生にそんな話されて、重たかったでしょう 母に言われて初めて気づいた。言われてみれば、あの頃の亮は今の裕幸と同じ年だ。 もし自分がよく知りもしないこどもに、こんな話をされたらどうするだろう。 ただ驚きうろたえるだけで、適切な対応なんて出来るわけがない。 改めて、真摯に向き合ってくれた亮に感謝すると共に、痛切に早くおとなになりたいと思った。 今までもずっとそう思ってきた。だけど、もっと早く。亮が自分に弱さを見せられるくらい、早くおとなになりたい。 そうしたら、亮にこんな重荷を押し付けずに済んだのに。 七つの年の差が悔しい。 ーーーごめんなさいね。でも、本当に、ありがとう 母は重ねて詫びと礼を言う。
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