第13章

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「ほんとにいいんですか?」 「鍵がないと裕幸くん、僕が帰ってくるのをいつまでもドアの前で待ってそうだし」 眉を下げて困ったように笑う亮は、本当はまだ迷っているのかもしれない。 亮の気が変わらない内にと、急いで財布を取り出し、鍵をしまった。 ここ数週間の内にまとめて与えられた幸福は、これまで背負ってきたあれこれと全部引き換えにしてもあり余るほどで、本当に自分が受け取ってよいのか、不安になる。 亮と付き合うことになった直後は、現実感がなさすぎていまいちピンときていなかった。 元々ただの友人というには距離感が普通ではなかったし、図書館で見かける亮はいつも通り淡々としていて掴みどころがない。 今日、こうして何気ない接触を拒まれるようになってから初めて、ようやく亮もそういう意味で意識してくれているのだと実感が沸いた。 その矢先の合鍵である。 財布を手にしたまま、バカみたいに感動してしまった。 「だけど、僕にかまけて大学生活を疎かにしないでね。学業だけじゃなくて、具体的に将来の職業に関することとか。大学生の間にきっと色々学べるから」 裕幸に対して年上ぶる癖が抜けない亮は、釘をさすのを忘れない。 「バイトも良いけど、サークルとかゼミとかも打ち込まないともったいないよ。色んなひとにも出会えるし」 いつもの小言の中に含むものを感じてしまうのは、邪推しすぎなのだろうか。 ポケットに財布を突っ込みつつ、裕幸は亮を横目で盗み見た。 「…わかりました」 「いい子だね」 物分りの良い返事をした裕幸に、亮はやさしく微笑んでくれた。 亮は裕幸に対して、恋人というよりは保護者のような気持ちが強い。あくまで純粋に裕幸のためになることを望まれると、嬉しい反面つらい。 新しい環境でたくさんの出会いがある中、裕幸の目が他所へ向く可能性など、亮は考えもしないのだ。 「亮さん、もし俺に他に好きなひとが出来たら、どう思う?」 「どうしてそんなこと訊くの?」 尋ねると亮は答えず、ただ不思議そうに首をかしげた。 そこまで具体的に考えての言葉ではなかったのか。 けれど、一度生まれた疑念は、口にせずにはいられなかった。 「じゃあ、言い方変えるね。もしオレに好きな女の子出来たら、嬉しい?」 「それは…」
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