第13章

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入り口に並んだ郵便ポストを素通りして、階段を上る。狭い通路に響く二人分の足音に、急に気持ちが浮き足立ってくる。 亮が借り受けたのは、二階の角部屋だった。表札も何もない、まっさらな白い扉。 「裕幸くん、合鍵使ってみたい?」 「ううん、いい。亮さんが開けて」 うずうずしている裕幸を振り返って、亮はからかうように尋ねてきたが、付き合う余裕はなかった。 だって、このドアの中に入れば、ようやくふたりきりになれる。両想いになってから、初めての機会だ。 外では亮が恥ずかしがって、並んで歩くだけで精一杯だったけど、誰も居ないこの部屋でなら、恋人らしいことをしたって許されるはず。 たとえば、部屋に入るなりキスしたりとか。 「あれ?鍵が回らない…」 「もー、やってあげよっか?」 不埒な妄想で上擦りそうになる声を何とか押さえ、鍵と格闘する亮を背後から覗き込む。 しばらく亮は首を傾げてノブを回していたが、急にガチャリと音がして鍵が開いた。 「あ、開いた」 亮は何気なく振り返り、すぐ後ろに立つ裕幸に気づいて一瞬動きを止めた。 「亮さん?」 わざと耳元で囁くように尋ねると、やわらかい髪が吐息で揺れる。 亮は逃げるように裕幸に背を向けた。 「っごめん、何でもない」 相変わらず表情はあまり変わらないけれど、マフラーの隙間から見えるうなじが僅かに赤くなっているような気がする。 これからふたりの時間が始まるということを、少しでも意識してくれたのなら嬉しい。 ドアノブに手をかけた亮は少しためらって、裕幸を見上げる 急かさずに、ただ微笑んで見返すと、亮は大きく息を吐いた。 そして、恋人としての新しい一歩を踏み出すために、ドアを開けた。
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