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自分のあずかり知らぬところで育まれた想いに、責任をとらなきゃいけないなんて、本当は少し理不尽な気がするのだ。
亮だって亮なりに裕幸のことを大切に思ってきた。あまり人付き合いの得意ではない亮の心の中に、ちゃんと裕幸の居場所はあった。
それなのに、いつのまにか一方的に関係性を変えられて、それが現状維持を許さない、何だか危ういものになってしまっている。
もうずっと昔から、亮の心のいちばん居心地のいいところを明け渡してしまっているのに、裕幸はそこでは嫌だという。もっともっと近づきたいと訴える。
そもそも裕幸は亮にとって、ただの年の離れた友人ではない。彼は生い立ちに特殊な事情を抱えていて、いつだって誰か支えてくれるひとを必要としてきた。
ずっとその真似事のようなことをしてきた自覚が亮にはある。
もし手を離してしまったら、裕幸はどうなってしまうんだろう。受け入れられないと突き放してしまえば、孤独な少年はひとりで生きていくのか。
それが怖くて、亮は裕幸をきっぱりと拒絶することが出来ないでいる。
「僕、今までその子のこと、弟みたいに思ってたんだ」
「おぅ」
「無邪気で素直でとびきり可愛い弟だと思ってたのに、気がついたら自分より背の高い男前になって、なんか隙あらばそういう雰囲気出してくるんだ。これってずるくない?」
赤裸々な相談を旧友に持ちかける羞恥より、聞いて欲しい気持ちが勝った。切々と訴える亮に戸田はすでに半笑いだ。
「色々突っ込みたいが、まぁひとまず置いておいて。そういう雰囲気って?」
「だからこう……、流されたらとびきり危険なやつ」
「…さすがイケメン、あやかりたいな」
亮だって、その相手が自分でなければ、すごいなぁ、と素直に感心したかもしれない。裕幸の成長を感動しつつ、手を打って喜んだだろう。
「ごくごく普通の会話してても、ちょっと油断すると恋愛小説の一シーンみたいな空気出して来るんだ。僕あんまり恋愛小説読まないのに」
「十七にして末恐ろしい辣腕だな」
冷静なコメントに同意しつつ、さめざめと嘆く。その相手が同世代の可愛い女の子だったら良かったのに。何でよりにもよって七つも年上の男なんだ。
うな垂れる亮を横目で見つつ、つまみに箸を伸ばす友人は冷徹だった。
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