第6章

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「お前がこんなに一所懸命勉強しているのに、俺たちだけで遊びに行くのもなぁ。今年くらい裕幸に付き合ったって…」 生真面目でやさしい父は、裕幸を残していくことに、後ろ髪を引かれているようだ。 思いがけず雲行きが怪しくなってきて、内心汗をかいている裕幸の腰に、弟の良裕が飛びついてきた。 「えぇ!!父さんと母さんと揃って出かけられるのって、毎年このキャンプくらいなのにー!キャンセルなんておれヤだかんね。ねぇねぇ、兄ちゃんもいっしょに行こうよ」 がっちり腰にしがみついたまま喚く良裕は、裕幸の六つ年が離れた弟だ。もう中学生になるが、少し幼いところがあって、いまだにべったり懐いてくる。 常ならなるべく言うことを聞いてやるようにしているのだが…、二泊三日ずっと行動を共にするのは、正直気が重かった。 「うーん、オレも行きたいのは山々なんだけど、後で後悔したくないし…」 「ついこないだまで全然勉強してなかったじゃんか!」 「……それを今後悔してるから、これ以上後悔したくないんだって」 そう口ではいいながらも、気持ちはぐらぐら揺れ始めていた。 家族に頼まれると、裕幸は弱い。自分に出来ることなら、何でも叶えたくなってしまう。 「こら、お兄ちゃんに無理言わないの」 そのとき、計ったようなタイミングでリビングから母が出てきた。良裕にリュックサックを持たせて、急き立てる。 「ほら、ちゃんと自分の荷物は自分で管理しなさい。それから出かける前にトイレも必ず行っておくように!」 「はーい」 母親に強めの声で言われ、良裕は常になくいい子の返事で裕幸から離れた。せっかくキャンプへ向かう流れに戻ったのを、止めたくないのだろう。 そのまま走って玄関へ向かう良裕と入れ替わるように、裕幸の前に母が立つ。 「お父さんもあんまりしつこく裕幸のこと誘わないの。それより、本当に長谷川さんって方に渡すお月謝って、これだけでいいの?」 眉を寄せながら封筒を差し出してくれるので、ありがたくもらっておく。 「うん。あのひと、ああ見えて頑固だから。ほんとは要らないって言ってたのを受け取らせただけでも母さんすごいと思うよ」 手にした封筒を一旦階段に置き、立ったまま難しい顔をしている父親から寝袋を取り上げる。
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