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「…っ」
突き放される覚悟はしていたけれど、亮はそうはしなかった。
束の間驚いた様子で固まっていたが、しばし逡巡した後、ぎこちなく腕が背中に回される。自分とは違う体温を感じていると、こわばっていたからだから力が抜けていくのが分かった。
そのままゆるやかなリズムで肩を撫でられ、泣きそうになる。
「……ちょっとだけこうしててもいい?」
絞り出した声は外の喧騒に負けそうなくらいか細かった。
亮は拒絶する代わりに、何も聞かずに後ろ手で扉を閉めてくれた。
***
「亮さん、お茶でいい?」
「ありがとう。何だか申し訳ないな。ご飯まで頂くことになっちゃって」
あの後、裕幸が落ち着くまで抱き合っていたら、二人とも汗でべたべたになってしまった。
我に返ると気恥ずかしくて、さっぱりしたいから、と浴室へ駆け込んで時間かせぎをした。その後、半ば強引に亮にもシャワーを浴びさせた。
当然替えの服なんて用意していないから、下着はコンビニへ買いに走ったが、その他は裕幸の私服だ。
こんな状況なのに、自分の服を亮が着ているというシチュエーションにこっそりテンションが上がってしまう。なるべく普段亮が着ている服に近い服を選んだつもりだが、やっぱりどことなくいつもとは印象が違って見えた。
その後、食事の有無を聞かれ、ようやくまだ食べていないことに思い至り、二人で母が作り置いてくれたカレーを食べ終わったところで、時計を見れば時刻は午後七時半。
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