第6章

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「ぅううあああぁあ、ぁあぁぁぁああああああああああ!!!」 止めようもなく、喉から悲鳴が迸った。見開いた瞳から、涙がぼろぼろとあふれる。冷え切った手足は感覚がなく、亮の細い腕に掴まって立っているのがやっとだった。 「ぁぁぁああぁぁぁぁぁ」 知りたくなかった。知らなければ、普通のこどもでいられた。 でも、もう無理だ。 父は全て知っているのかもしれない。だけどそれを確かめることも許されない。 母は今も父を裏切り続けている。きっともうすぐ死んでしまう、あの男のために。 どうして今日に限ってオレに声をかけたの? あの男に見せたかった?あなたは死んでも、あなたの子どもは残るって? どうしてオレを産んだの? どうして。 どうして。 お母さんー……、 どれくらいそうしていたのだろう。我に返ったときには、涙は止まっていたが、頭から水を浴びたように体中、ぐっしょりと汗をかいていた。炎天下の駐輪場で、亮はその間ずっと裕幸を支えてくれていた。 *** 「父さんはあれからずっと今でも、オレのことほんとの子どもみたいに扱ってくれてる。だけど大切にされてるなぁって思うほど、どうしようもなく苦しくて」 父が与えてくれる無償の愛を受け取る権利は、自分にはない。 だってオレは父さんの本当の子どもじゃないのに。 知ってしまった母の不貞をひた隠しにしたのは、今の家族を壊さないため…、というのはただの建前だ。 本当は血が繋がっていないことを打ち明けたら、父親にどのような反応をされるのか、想像するだけでも怖くて、とてもじゃないけど言えなかった。 「例え裕幸くんとお父さんの血が繋がってなかったとしても、君が罪悪感を持たなきゃいけない理由なんてどこにもないよ」 「分かってるよ。分かってるけど、…ときどき我慢できなくなるっていうか」 声が震えそうになるのを何とか押さえて、唇を笑みの形に形作る。せめて笑って見せないと、今にも泣いてしまいそうだった。 すると不意に、いまだ握り続けていた手を亮はほどいた。 唐突に離れていったぬくもりに、裕幸は後悔する。やっぱり、高校生にもなってこんな泣き言言うんじゃなかった。
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