第1章

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外は少し暑いくらいの陽気だったが、エントランスをくぐった途端に少しひんやりとした空気に変わった。 それでも自転車でここまで来た裕幸には暑いのだろう、羽織っていたブレザーを脱ぎながら、不意に神妙な顔を向けてきた。 「亮さん、怒ってる?」 「どうして?」 さて、裕幸はなにか亮に叱られなければならないようなことをしただろうか。首をかしげてしばし考えて、答えはすぐに思い当たった。 「あぁ、ひょっとして木に登ったこと?」 「うん……」 落ち着かない様子で下を向く裕幸はもしや本当に亮に怒られるとでも思っているのだろうか。それは少々心外だ。 「まさか。僕はそこまで堅物じゃないよ。時と場合があるからね」 確かにこと裕幸に対してはくどいくらいに小言を言ってきたが、実際にはそれほど四角四面ではないと自分では思っている。きっぱりと言い切ると裕幸はあからさまに安堵した顔を見せた。 「それより…」 ちらりと横を歩く裕幸に目をやる。 幼かった頃、裕幸は背が低く、顔立ちも中性的だったし、とても可愛らしかった。そのイメージが今でも抜けないのだが、何だかここ最近、ぐっと男っぽくなってきたようだ。制服のシャツごしにでも、成長途中で細身だけれど、ちゃんと筋肉のついた体躯をしているのが分かる。 亮にはよく分からないが、裕幸は今風の、多分とても格好良い子なんだと思う。 その上最近はおしゃれにも目覚めたらしい。今日は髪型がいつもと違っていて、いつも以上に大人びて見える。良く知っているはずの裕幸が、急に見知らぬひとになってしまったような気がして、何だか落ち着かない。 エレベーターホールのあたりでとうとう立ち止まり、じっと裕幸を見つめる。 物言いたげな亮の視線に気づいた裕幸は、つられて立ち止まると、不思議そうにこちらをのぞきこんできた。 「亮さん、どうかした?」 「髪切ったんだ」 「あぁ、そう。で、毛先ちょっとだけパーマあててみたんだけど、変?」 髪をくしゃりとかき回す、そんな仕草すらさまになっているのが、何となく面白くない。 変かどうかをきかれると、おそらくとても似合っている。だけど、どういうわけか亮はそれを素直に認める気になれないでいた。 仕方なく当たり障りのない言葉を捜す。 「パーマって校則違反なんじゃないの?」 「まぁまぁ。それより、亮さんはどう思う?好みじゃない?」
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