第7章

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華北図書館のこどもフロアは地下一階にある。 地下と言っても吹き抜けになった広い中庭があるので、ふんだんに採光は取れているし、外の天気も分かる。十月の今、中庭は可愛らしくハロウィンの飾りつけがしてあった。 その明るく居心地のいい子どもフロアの一角で、亮は探しものをしていた。 子どもフロアのほとんどの書架は、子どもの背丈に合わせて低く設けられている。自然片膝を着きながらインデックスをていねいにさらっていくと、ようやく目当ての本が見つかった。 探していた本を手にとり、急ぎ足でこれまた子ども用に低めに設置されたカウンターへ向かう。 「お待たせ。あったよ」 後ろから声を掛けると、長袖のワンピースを着た少女が振り返った。亮の手の中の本を見て、嬉しそうに頬を緩める。 「お兄さん、ありがとう」 「どういたしまして」 そのままカウンターの向こうに回り、貸し出し手続きを済ませると、少女はにこにこと笑いながら階段を上っていった。 この日亮は久しぶりに子どもフロアの貸し出し業務をしていた。 もともと亮は華北図書館でアルバイトをしていた頃、子どもフロアを任されていた。 これは、亮が採用されたとき、たまたまこのブースに欠員が出たからで、特に理由がないのでそのまま据え置きになった。 表情が乏しく愛想が良いとも言えない亮は、子どもに受けが良いはずがない。はっきり言って適任とは言いがたかったが、だからと言って係替えをする必要があるほど、問題があるわけでもない。 こどもフロアメインの仕事は二年前、正式に職員として採用されるまで四年間続いた。 「貸し出しお願いします」 「はい。ここに置いてくれる?」 新たに今度は先ほどの少女よりは少し年上の少年が並ぶ。少年が差し出したのは、この世代の子どもがよく好む、推理小説だった。 バーコードをスキャンしながら、ふと懐かしい記憶がよみがえる。 そういえばこの本を昔、裕幸が幼かった頃に勧めたことがある。 「返却は二週間後の十月二十五日です」 「ありがとうございました」 目の前に立つ少年は、しゃちほこばった様子で軽く頭を垂れた。リュックサックに本を入れ、背負いながら歩き出す後ろ姿をみて、微笑ましい気分になる。 裕幸が小さかった頃とは大違いだ。あの頃裕幸は口が悪くて、亮の対して丁寧語で話すことはまずなかったし、第一呼び捨てにしていた。
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