第7章

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何度も亮が注意して、言葉遣いを改めさせたのだ。乱暴な言葉遣いは当人にとっても良くないし、あの頃裕幸は背が低くて顔も可愛らしかったから、粗野な口調は純粋に似合っていなかった。 裕幸は、知り合った当初から何となく不思議な子だった。 今からだいたい七年くらい前だろうか。はっきりとした日付は分からない。華北図書館でバイトをしていた亮の前に、いつからか彼はすがたを見せるようになった。 一日に何百と訪れる来館者の中でも、裕幸は印象的なこどもだった。それは多分、彼がいかにも図書館には縁のなさそうな容貌をしていたからだと思う。健康的に日焼けした裕幸は文学にはまるで興味がなさそうで、実際読書の経験もほとんどないようだった。 それなのに、時折華北図書館を訪れてはふらりと立ち去っていく。本を手にとることもなくつまらなさそうに背表紙を眺めていた彼に、声を掛けたのは亮の方からだった。 最初、裕幸はとても無愛想で、亮はずっと嫌われていると思っていた。その割には、顔を合わせば必ず話しかけてくるし、亮が勧めた本は絶対に借りていく。 一人っ子でお世辞にも面倒見がよいとは言われたことのない亮には、子どもの扱い方なんて全く分からなくて、ずっと手を焼いていた。 裕幸が、予期せず本当の父親に遭ってしまった頃も、そうだった。 裕幸が語る唐突に降って湧いたドラマのような話に、本当は亮は半信半疑だった。 だけど、裕幸があまりに重く受け止めているので心配になり、近所だからと誰に言うともなく言い訳をして、一度華北病院まで行ってみたことがある。 裕幸が一目で血縁関係を意識するくらい似ているのなら、亮が見てもそうだと分かるのではないかと思ったからだ。もし亮から見てまるで似ていないと感じるようであれば、思い過ごしだよ、と笑い話にしてあげることが出来ると思った。 しかし亮が件の病室を訪れたときには、その住人はもう居なかった。ナースステーションで聞いた話によると、亮が尋ねていく数日前に他界したらしい。 結果として、真相は謎のままだ。 見舞い先がなくなってから、裕幸は母と連れ立って華北図書館へ来ることはなくなった。その代わり、裕幸は自転車に乗ってひとりで訪れるようになった。
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