第7章

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ぼんやりと書架の前に佇む少年はひどく寂しそうに見えて、放っておけなくて、それまで以上にあれこれと話しかけた。その度に裕幸は煩わしいと怒ったけど、そのくせ亮が離れていこうとすると寂しそうな目をした。 本に興味がないと明言していた裕幸に推理小説を勧めたのは、とにかく時間を忘れて集中することが良いと思ったからだ。 最初は付き合い程度に本を借りていた裕幸は、次第に読書に夢中になり、しまいには亮が驚くほどのスピードで本を借りるようになった。 勧めた本の感想を教えてくれたり、読書以外の話題もするようになった頃、いつのまにか裕幸は明るくよく笑うようになっていた。 きっと、数年に渡る歳月が、ゆっくりと彼を癒していったのだろう。 だけどそれだけじゃなくて、時間を忘れて読書にのめり込んだことも、あのときの孤独な裕幸を救ってくれたに違いないと思っている。 途方もない寂寥を抱えた瞳が、徐々に光を取り戻していくのを見守ったことは、亮にとっても忘れがたい経験だった。 亮が大学卒業後の進路を考えたとき、このまま華北図書館で仕事を続けたいと思ったのは、少なからずその影響があった。 幸い、偶然その年に採用枠があり、ゼミの教授の力添えもあって、無事華北図書館で働くことが決まったときには、本当に嬉しかったことを覚えている。 人が途切れたタイミングで、横のカウンターに座っていたベテランの女性職員がそっと紙を一枚差し出してきた。 「ねぇ、長谷川くん、十二月のお勧め本のラインナップ、これでいいと思う?」 用紙を受け取り、目線だけで内容を確認する。 「……あ、やっぱりクリスマスですか」 「雪をテーマにするか迷ったんだけど、十二月にクリスマス外すわけにもいかないじゃない」 華北図書館のこどもフロアでは、階段を下りたすぐのところに、毎月季節に合ったお勧め本のコーナーを設置している。 十一月と十二月の分をまとめてチラシに印刷するため、十月の今からすでに十二月の図書を考える必要があった。 「もうクリスマスよ、もーほんと年々時が経つのが早くなって怖いわぁ」 「…………」 自分の親に年が近い女性のこのノリに、なんと返事をしたら良いのか分からない。黙ったまま用紙に書かれた書籍を確認する亮は、結果として無視したことになってしまったのだが、もう足掛け四年の付き合いになる彼女は、特に気にした様子はなかった。
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