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華北図書館には、持ち込み可の小さなイートインスペースがある。メインエントランスから程近いそこは大きな窓があり、大通りに面してカウンターが設置されている。種類は少ないが手作りのパンも売られていて、簡単なドリンクも頼むことが出来る。
持ち込み可であるためか、平日はランチ休憩中のOLや学生に良く利用されている。裕幸も昼をまたぐときは、大抵ここで昼食を摂った。
ただし今日は時間帯のせいか、使われている席はまばらだ。戸田はコーヒーを注文して、二人でカウンターに並んで腰掛けた。
自分のテリトリーに見知らぬ他人を入れたようで、少しだけ居心地が悪い。
「君も知っての通り、あいつはあんまり自分の話をするタイプじゃないんだけど、」
戸田はコーヒーを一口飲むなり、単刀直入に切り出してきた。亮の話は回りくどくて、曖昧な表現が多い。文学部出身の名残りなのかと思っていたが、個人差があるようだ。
「前呑みに行ったとき、ずっと弟みたいに思ってた子が、自分のこと好きかも知れないって相談された。多分君のことだろ?」
驚きの余り、咄嗟に表情が作れなかった。
ひょっとしたらすごく不安そうな顔をしてしまったのかも知れない。横目でこちらを見た戸田は、明らかに裕幸を気の毒そうに見ていた。
亮が自分の知らない誰かに、自分のことを相談をしていた、と聞かされるのはそれなりに不愉快なものだ。まして、ずっと弟みたいに思っていた子、なんて要らない注釈付きだ。
亮が具体的に何と言ったのか分からないことも相まって、余計にイラっとしてしまう。
目の端でこちらを見てくる戸田を正面から見据えて、自嘲しながら問い返す。
「気持ち悪いですか?」
「んー…話きいてたときはちょっと…いやかなり引いたけど。実物見るとイメージ変わった。君、何ていうか全然ホモっぽくないし、普通にイケメンじゃん」
モテそう、とはよく言われるし、実際女の子には好かれやすい方だとは自分でも思っている。
だけど、本当に好きなひとに振り向いてもらえないのに、そう言われたって嬉しくもなんともない。
そもそも裕幸は自分の顔がきらいだ。これと言って特徴もないのに、どこか酷薄に見えると顔立ちは、成長期を過ぎるとますます話したこともない父に似てきた。
たまに母がじっと見ている気がして、気づいたときはぞっとする。
「……どうでもいい子に好かれたって、意味ないんですけどね」
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