第8章

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ため息まじりに呟いて、ココアを一口飲む。どろりとした温かさが喉を通るのを感じ、そういえば疲れていたことを思い出した。 戸田もつられたようにコーヒーを口に含んでから、目を合わせずに尋ねてくる。 「あのさ、ただの好奇心で詮索してるわけじゃなから。答えにくかったら答えなくていいんだけどさ。君は、女の子ダメなわけ?」 思わず口に含んでいたココアに咽た。初めて会った亮の友人は、ずいぶんデリカシーのない人間らしい。 あまりにもずけずけと踏み込んでくるので、取り繕うのがバカらしくなってきた。 「ダメっていうか…女性は苦手ですね。だって、どんなにブスだろうが性格悪かろうが、女ってだけで勝てないんだもん」 猫を被るのを早々に諦めて、大きく伸びをする。ただでさえ模試の間机に向かって必死に頭を働かせていたのだ。これ以上複雑なことはあまり考えたくなかった。 目の前に広がる窓から、通りを行きかう人々をぼんやりと眺める。薄闇が広がる曇天の下、足早に通るひとたちは、皆寒そうに見えた。 「何か、聞いてた”裕幸くん”像とイメージ違うな」 「…亮さん、オレのことどんな風に言ってました?」 「笑うなよ?素直で可愛くて……後は何だったかな。もういっそ付き合っちゃえば?って言ったら、裕幸くんが汚れる、って言ったのがとにかくインパクトでかかった」 言うに事欠いて、汚れるとは。 ある意味大切にされているのは伝わったが、思いやりが斜めの方向へ向いている上、ずいぶんと時代錯誤な思考回路だ。認めるのは残念だが、間違いなく亮が言った台詞であろうと確信した。 「……笑うっていうか、泣きたいです」 「分かる。俺が引いたって言ってたのは、君にじゃなくて、亮にだから」 思わず顔を見合わせ、苦笑し合う。 少しだけ場の空気が和み、知らず強張っていた肩から力が抜ける。 「せっかくの機会だから、亮の好みのタイプとか興味ない?」 「知りたいです」 「あんまりあいつ、そういう話はしないけど。あえていうなら、自分を持ってる、落ち着いた大人の女。外見はいかにも女っぽいのがいいんじゃないかな。君も気づいてると思うけど、あいつ結構考え方古いから、ボーイッシュなのはタイプじゃないと思うよ。間違っても爽やかマスクの正統派イケメンではないね」 この場合の正統派イケメンが誰を指してるかなんて、火を見るより明らかだ。
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