第8章

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どうやら彼の中でもう用は済んだらしい。スマホを操作しつつ、亮の写真見たい?と画像フォルダを開き始めるので、ありがたく覗かせてもらった。 自分の知らない世界の亮は、控えめに笑みを浮かべ集合写真の隅の方に写っていて、やっぱりとてもきれいだった。 「片想い歴、五年じゃないです、多分ほんとは七年くらいになります」 戸田は亮と違って雄弁で、良くも悪くも正直なタイプの人間のようだ。亮とはあまり似ていないように感じたが、だからこそ友達として気が合うのかも知れない。 「え、だって亮、その頃から好きって言われてたって」 「十のガキが、自分よりずいぶん年上の男の人を好きになっちゃったんだ、って気づいたとして、素直に好きだなんて言えると思います?最初はどうしたらいいのか分からなくて、むしろ態度悪かったと思います。オレ自身、自分の性質を受け入れられるのに、二年はかかりましたから」 もう少しだけ自分の気持ちを知って欲しくて、つい余計なことを言ってしまった。 「………その年で、ずいぶん苦労してるなぁ」 戸田は少しだけ目じりを下げて、慰めるように笑ってくれた。 今日知り合ったばかりの他人と並んで座っていても、もう気詰まりを感じることはなかった。 自分の気持ちを隠さないでいい相手は思った以上に居心地がよく、ちょっとだけ戸田の連絡先を知りたいような気がした。実際、こちらから訊けば断られることはなさそうだ。 けれど結局訊くのは止めておいた。戸田の方から尋ねてくることもなく、ふたりはもう少しだけ話して、図書館の入り口で別れた。 戸田は、本を返却しにカウンターへ。裕幸はバスに乗るために、図書館の外へと。 自動ドアをくぐると、外は完全に暗くなり、ずいぶん冷え込んでいた。着込んでいたジャケットのポケットに手を突っ込み、バス停へ向かう。 携帯で時刻を確認すると、バスはもう間もなく来るようだった。
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