第8章

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ーーー付き合ってくれって言わないの? 別れ際に戸田にぶつけられた質問に、咄嗟に回答できなかった。曖昧に濁した裕幸に戸田は少し不満そうだったが、それ以上押し付けることはなく、最後は笑顔で手を振ってくれた。 告白は、百パーセント勝算があるのなら、もちろんしたい。だけど、断られたとき、振られるだけならまだいい。もしも距離を取られるようなことになったら最悪だ。 十中八九、亮は裕幸の恋心に気づいていて、でもこちらからアクションを起こさない限り、そばにいることは許してくれている。多少友人としては行き過ぎな位の接触があっても、”弟みたい”という免罪符で流されてきた。気持ち悪い、と突き放されないだけでも、僥倖なのかもしれない。 だけど本当は、ただそばにいるだけでなく、もっと深い仲になりたかった。 想いを伝えて、触れ合って。一方的に甘えるだけじゃなく、亮が辛いときには支えてあげたい。 そして何より、このひとは自分のものだと思いたかった。 でも、今の自分はまだ未成年だし、その上学生という立場だ。 想いを告げることが許されるには、後どのくらい待てばいいのだろう。 冷たい風が吹きすさぶバス停で、背中を丸めてからだを揺する。暖かい飲み物を飲んだばかりなのに、朔風は急速に熱を奪っていく。 今日、戸田にたまたま会って、裕幸の片思いを励まされたのは、素直に嬉しかった。だけどそれと同時に胸の奥がひりつくような焦燥も感じた。 当たり前のことだが、亮には亮の人生がある。裕幸とは全く関わりのない交友関係があって、裕幸の知らない時間を過ごしている。 いつどこで、亮が運命を感じる女性に出会っても不思議ではないということを、改めて思い知らされた。 今までだって待てたんだから、これからだってきっと待てるはず。そう自分に言い聞かせるも、無性に不安が残った。 待っていたはずのバスはもう間もなく来るはずだ。
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