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毎週金曜日の夜に、裕幸の家へ家庭教師に通っている。
そして、今年はたまたま金曜日がクリスマスイブと重なってしまった。
現在付き合っている相手はいないし、年若い友人の将来に直結する勉強以上に優先すべき予定などない。
結果としてイブの夜に裕幸の家へ行くことになってしまったが、そこに他意はない。
断じて全くない。
開館時間を過ぎ、人もまばらな控え室。
契約社員である松本が亮を呼び止めたのは、こんな無意味な言い訳を心の中で繰り返していたときだった。
「長谷川くん、今日イブだけど、この後裕幸くんの家に行くのよね?」
開口一番、気にしていたことに真っ向から触れられ、喉の奥がぐっと詰まる。
よく金曜日にシフトが入っている松本には、裕幸の家へ家庭教師に通っていることを話してあった。
礼儀正しくて人当たりのいい裕幸は、華北図書館のどの職員とも打ち解けているが、とりわけ松本とは親しくしているようだ。そのためか彼女は亮が家庭教師をすることを非常に前向きに応援してくれ、金曜日の早帰りにも積極的に協力してくれている。
「そうですけど…」
努めて帰り支度をする手を止めずに、顔を上げる。
松本はロッカーからクリスマスツリーが印刷された、いかにもな紙袋を取り出した。
「ついでにこれ渡しておいてくれない?裕幸くんにクリスマスプレゼント。この前ちょっと書棚整理手伝ってもらったから、そのお礼をかねて」
中学生のこどもがいるとは思えない、華やいだ笑顔で差し出された紙袋を受け取って苦笑する。
「受験生相手に何させてるんですか」
「勉強ばっかりじゃ、息詰まっちゃうでしょ」
鼻歌を歌いながら職員証を外す松本に、悪びれた様子は全くない。
身支度を終えた亮を見て、驚いたように目を見開いた。
「あれ、ちょっと、長谷川くんは手ぶら?まさか裕幸くんにプレゼントあげないの?」
「特に予定していませんが」
ただの友人という間柄の男同士で、普通はクリスマスにプレゼントを贈り合ったりしない。
ごくごく一般的な日本の常識を告げると、松本は露骨に非難がましい顔になった。
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