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「なんであげないの?」
「逆に何であげるんですか?」
「そんな言い方…ひょっとして一度もあげたことないの?」
「ないです」
「まさか、誕生日も?」
「ないです」
淡々と応える亮とは対照的に、松本の眉間の皺はどんどん深くなっていく。しかし何がそれほど彼女の機嫌を損ねたのか分からず、亮はただただ困惑した。
「あんまりあぐらかいてると、その内愛想つかされちゃうわよ」
「はぁ」
亮の知らない間に、友人同士でプレゼントを贈りあうことは、それほど一般的になったのだろうか。
腑に落ちない亮が口を挟むより、松本が帰り支度を終える方が早かった。
口下手な亮は、相手がよほどの聞き上手でなければ、女性との会話でろくに意見を言えた試しがない。
「じゃあ、お疲れさま」
明朗な挨拶を残し、松本は急ぎ足で控え室を出て行った。
派遣とは言え仕事を持ち、二児の母でもある彼女は、とにかく忙しい。
颯爽と歩き去る後姿を見送りつつ、手にもった紙袋を見下ろして憂鬱になる。
物思いに囚われそうになるのを振り切り、亮も松本に倣って図書館を後にした。
一歩建物から出ると、外は切りつけるような寒さだった。
日はとうに暮れ、宵闇の中吐く息は白い。
手を握り合わせ暖を取りながら、バス停で時刻を確認する。
今から本屋に寄るには少々時間が足りないが、ただ座って待つには長すぎる時間。
幸いというべきか、大通りに面したこの図書館のそばには、手ごろな雑貨屋が数軒ある。
少し迷って、結局いちばんバス停から近い店のドアを開いた。
一歩足を踏み入れると控えめに聞こえてくるのは、もちろんクリスマスソング。店内のいたる所に赤と緑と白の装飾が施され、否が応にも今日という日が特別な日であることを意識させられる。
家庭教師の先生が、可愛い教え子にプレゼントをあげることは、そうおかしなことではないはず。
何でもないふりをするには、今日という日はあまりにも存在感がありすぎる。それならいっそ、ある程度乗ってみる方が自然かも知れない。
そこそこ広い店内には雑貨の他に、洋服もたくさん置いてあった。さすがに洋服を贈るつもりはないが、つい裕幸が着ているすがたを想像してしまった。
この中のどれを着せても、裕幸ならごく自然に着こなすだろう。
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