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遅れて来た裕幸の成長期はようやく終わりつつあるが、それでも百七十半ばの亮よりはっきりと分かるほどに裕幸の方が背が高い。
小さくて可愛らしかった少年は、もはや長身といって差し支えないほど育ってしまった。
自分では良く分からないのだが、亮には確かに似合わない種類の服があることを理解している。何でも嫌味なく着こなせるのは、純粋に羨ましくもある。
気づかぬ内に、誰もが認める好青年に成長した裕幸を誇らしく思うと共に、言いようのない焦燥も生まれた。
こどもだから、と踏み出せないのは、ただの言い訳でしかないのだと、本当は亮自身気づいている。
クリスマスギフトのコーナーを見つけ、物色していると、サンタ帽を被った店員が近づいてきた。
「プレゼントをお探しですか?」
とつぜん背後から話しかけられて、驚いた。
普段、あまりこういう場で声をかけられることがないので、少し動揺してしまう。
「はい」
「お相手はどのような方ですか?」
「高校生の男の子です」
そうだ。相手は高校生の男の子。
自分で言った言葉に、否応なしに現実に引き戻される。
駆け足で進んだ妄想に歯止めがかかってよかった。手を出したら犯罪だった。
「……その子の家庭教師をしているんです」
自分の返答の不自然さがいたたまれず、慌てて付け足してみたが、二十台前半だろう年若い女性店員は特に興味を示さなかった。にこやかな笑みを崩さず、手でディスプレイの一角を指し示す。
「でしたら、手袋などはいかがでしょうか?」
つられて視線を移すと、ワゴンの上にはたくさんの手袋が整然と並んでいた。
こうして改めて見ると、手袋ひとつをとってもずいぶん色んな種類があるものだと感心する。
亮はおしゃれのことなどよく分からないが、裕幸には色々こだわりがありそうだ。
目に付いたものをいくつか手にとって見るも、どれも似合いそうで決め手にかける。
結局店員に勧められるがままに手袋を買って包んでもらう。
ついでに、ご家族用にも焼き菓子のセットを見繕ってもらった。
「ありがとうございました」
にこやかに商品を渡され店を出ると、それだけでなぜかどっと疲れた。
ちゃんと買いたかったものは買えたはずなのに、言いようのない敗北感に打ちひしがれながらバス停に向かう。
裕幸の自宅に着いて、チャイムを鳴らすと、出てきたのは母親だった。
普段なら裕幸が出迎えてくれるので、少し面食らう。
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