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「こんばんは」
「いつもありがとうございます。あの子、今帰ってきたんですよ。どうぞ、おあがりください」
玄関先で手土産の菓子を渡すと、ごく普通に喜んでもらえ、ひとまずほっとする。
階段を上り、裕幸の部屋のドアを開けると、裕幸は慌てた様子で羽織っていたコートを脱いでいた。
「わぁ、亮さん!どうしても抜け出せなくて、オレも今帰ってきたところなんだ。ギリギリになっちゃってごめんなさい」
そうだ、今日はなんと言ってもクリスマスイブ。
明るくて人当たりも良い裕幸は、きっと当然友人も多い。クリスマスを一緒に祝いたい相手だって大勢いただろう。
「ごめん、こんな日くらい勉強はお休みにすればよかったね」
己の気遣いのなさにちょっと落ち込みつつ謝罪する。
「え、止めてよ。誤解しないで。クラスメイトとバカ騒ぎするより、亮さんと一緒に居られる方が、ずっと嬉しい」
「僕は毎週会えるじゃない」
「一日だって逃したくないし、今日、この日に会えることが重要なんだよ!」
手にコートを持ったまま裕幸は詰め寄ってくる。
視界の真ん中に見慣れた制服姿の裕幸を据えて、亮は思わずたじろいだ。
白いカッターシャツのボタンを二つ外し、緩くネクタイをまとった裕幸は、誰がどう見ても垢抜けたイケメンだ。
だけどこうして客観的にまじまじと観察してみると、背丈は伸びたけど、肩周りや胸板に厚みがない。
深緑色のブレザーから覗く手首が筋っぽい。
顔立ちも、大人と比べるとなんだかちょっと幼い。総じて、
「裕幸くんってやっぱり高校生なんだね」
「……何を今さら。急にどうしたの?」
とてつもない罪悪感に駆られて裕幸の顔を直視出来ない。己の恥ずかしい思考回路を発表できるはずもなく、目をそらしたまま右手に提げてきた紙袋を手渡した。
「いや、何でも。はいこれ」
「これなに?」
「松本さんからクリスマスプレゼントだって」
「えぇ?悪いなぁ」
裕幸は、少し眉を寄せて、困ったように頭を掻きながら受け取った。
紙袋の隙間から中身を確認してから、さりげなく棚の隅に置く。その動作に何の気負いもなく、こういうものを受け取り慣れているということがよく分かる態度だ。
やっぱり、モテるんだろうな、と複雑な気持ちになった。
だけど、この流れならこちらも肩肘張らずに渡せていい。
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