第10章

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年末年始は今年も何となく過ぎて行った。学生の頃と違って、社会人になると節目ごとの変化が乏しくなる。 ただ一つ例外があるとするならば、それは裕幸の受験勉強に付き合っているということだろう。年が明ければ、受験はもう目前だ。 裕幸は結局、通っている高校から指定校推薦をもらえることになった。亮の基準から言うと、裕幸は何となく真面目とは言いがたい雰囲気がある。しかし、それでも華咲高校では品性方正で通っているらしい。 入学当初からコンスタントに好成績を修めていたこともあり、危なげなく学校内推薦を勝ち取ったようだ。 推薦入試の合格発表は通常よりも一月ほど早く、裕幸の志望校は二月初旬の今日である。 その日、亮は朝から気もそぞろだった。 家庭教師として、裕幸のここ一年の勉強を見守ってきたからこそ分かるのだが、順当にいけば、落ちることはまずないと思う。特に寒くなってきてからの彼の追い込みは鬼気迫るものがあって、模試の判定も順調なのに、どうしてそこまで必死なのか、不思議に思うほどだった。 だから、そう心配することはないと分かっているのに、やはり落ち着かない。 裕幸は今日、亮の仕事が終わるころに報告に来る、と言っていた。 合格発表は自宅に通知が届く他にも、指定の時刻を過ぎればインターネットでも確認出来る。今日の昼ごろにはもうすでに結果が出ているはずだ。 現在華北図書館は閉館時刻を過ぎ、来館者はもういない。館内の空調も夜間モードに切り替えられ、室内は少しずつ冷え込み始めている。 後わずかで合否がはっきりするのだと思うと、否応なしに緊張感が高まってくる。 ひょっとしたら自分が受験したときよりも緊張しているかも知れない。 「長谷川くん、裕幸くん来てるわよ」 「……え?」 思いがけない声に振り返ると、先に帰ったはずの松本が裕幸を連れてフロアの入り口に立っていた。 「どうしたの?」
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