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「あのなぁ!オレが何言っているか、亮さん分かってる?オレはずっと前から、もうほんとにガキのころから亮さんのことが好きなの!エロいこととかもしたいとか思ってんの!」
今となっては自分より上背のある裕幸に間近で怒鳴られると、本当は少しだけ怖い。特に今まで負の感情を向けられたことがない分、余計に迫力があった。
だけど、一歩も引かずにじっと見つめ返す。もう目をそらしたくない。
裕幸は苛立ちも露に髪をかき混ぜると、いっそ憎々しげにこちらを睨みつけてきた。
「前々から思ってたんだけど、亮さん、いくら何でも同性ってことに甘えすぎ。どんな理由があったって、告白した相手に無防備に抱きついたりしてたら、押し倒されても無理やりキスされても、文句言えねぇよ。分かってる?」
「分かってるよ」
引き離された分距離をつめて、改めて笑いかける。ただ一歩近づいただけなのに、裕幸はなぜか殴られたような顔をした。
「押し倒しても、キスしてもいいよ。ずっと待たせちゃってごめん」
でも、まだ一応仕事中だから、もう少し待ってね、と付け加えると、ぴたりと裕幸は凍りついた。握り締めていたタオルが音もなく床に落ちるが、それすら気づいていないかも知れない。拾い上げてカウンターに戻しても、裕幸は固まったままだった。
亮としてはかなり思い切った返事をしたつもりなのに、こうも無反応だと自信がなくなってくる。
早くいつものように笑いかけて欲しいと、切に願った。
「………亮さん、それ本気で言ってる?」
「信用ないなぁ」
長い沈黙の後で、恐々と問いかけてくる裕幸に、思わず苦笑してしまう。
カウンターの天板の上に置きっ放しになっていた懐中電灯を掴み、灯りをつける。
呆然と立ち尽くす裕幸を背に、一般図書が並ぶ書架へ向かってゆっくりと歩き始める。
大きな窓ガラスの向こうはとっぷりと暮れ、鏡のように室内の様子が反射している。横目で確認すると、我に返った裕幸が、慌てて追いかけてきていた。
「亮さん!」
「僕も、裕幸くんが好きだよ。裕幸くんと同じ好きかは……ちょっとまだ、分からないけど。君が僕を必要とするのなら、そばに居てあげたいと思う。それじゃだめかな?」
歩きながら、すぐ後ろについてくる裕幸に問いかける。懐中電灯であちこち照らしてそれらしくしてみたけど、本当は緊張でロクに周りの状況なんて目に入ってこなかった。
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