第10章

6/14

1032人が本棚に入れています
本棚に追加
/132ページ
「あのなぁ!オレが何言っているか、亮さん分かってる?オレはずっと前から、もうほんとにガキのころから亮さんのことが好きなの!エロいこととかもしたいとか思ってんの!」 今となっては自分より上背のある裕幸に間近で怒鳴られると、本当は少しだけ怖い。特に今まで負の感情を向けられたことがない分、余計に迫力があった。 だけど、一歩も引かずにじっと見つめ返す。もう目をそらしたくない。 裕幸は苛立ちも露に髪をかき混ぜると、いっそ憎々しげにこちらを睨みつけてきた。 「前々から思ってたんだけど、亮さん、いくら何でも同性ってことに甘えすぎ。どんな理由があったって、告白した相手に無防備に抱きついたりしてたら、押し倒されても無理やりキスされても、文句言えねぇよ。分かってる?」 「分かってるよ」 引き離された分距離をつめて、改めて笑いかける。ただ一歩近づいただけなのに、裕幸はなぜか殴られたような顔をした。 「押し倒しても、キスしてもいいよ。ずっと待たせちゃってごめん」 でも、まだ一応仕事中だから、もう少し待ってね、と付け加えると、ぴたりと裕幸は凍りついた。握り締めていたタオルが音もなく床に落ちるが、それすら気づいていないかも知れない。拾い上げてカウンターに戻しても、裕幸は固まったままだった。 亮としてはかなり思い切った返事をしたつもりなのに、こうも無反応だと自信がなくなってくる。 早くいつものように笑いかけて欲しいと、切に願った。 「………亮さん、それ本気で言ってる?」 「信用ないなぁ」 長い沈黙の後で、恐々と問いかけてくる裕幸に、思わず苦笑してしまう。 カウンターの天板の上に置きっ放しになっていた懐中電灯を掴み、灯りをつける。 呆然と立ち尽くす裕幸を背に、一般図書が並ぶ書架へ向かってゆっくりと歩き始める。 大きな窓ガラスの向こうはとっぷりと暮れ、鏡のように室内の様子が反射している。横目で確認すると、我に返った裕幸が、慌てて追いかけてきていた。 「亮さん!」 「僕も、裕幸くんが好きだよ。裕幸くんと同じ好きかは……ちょっとまだ、分からないけど。君が僕を必要とするのなら、そばに居てあげたいと思う。それじゃだめかな?」 歩きながら、すぐ後ろについてくる裕幸に問いかける。懐中電灯であちこち照らしてそれらしくしてみたけど、本当は緊張でロクに周りの状況なんて目に入ってこなかった。
/132ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1032人が本棚に入れています
本棚に追加