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「っダメじゃ、ないです…」
分かりやすく喜色の浮かんだ声に、ほっとして振り返ると、声以上に喜びを湛えた裕幸と目があった。ついさっきまで凍えそうに見えたとは思えないくらい頬が高潮し、口元がむずむずしている。
そしてついに我慢し損ねたみたいに、満面の笑顔になった。
晴れやかに笑う裕幸を見ていると、亮も胸の奥がくすぐったくなる。
自分の一挙一動でこんなにも分かりやすく喜んでもらえる。
裕幸の気持ちを受け入れると決断するまでは、彼のこうした反応が後ろめたくて苦しかった。
亮自身、自分の気持ちがとても裕幸と同等だとは思えない。だけど今は、まっすぐに好意をむけられて、それを素直に嬉しいと思える。
それはとても幸福なことだと気づいた。
ようやく少し回りに目をやる余裕が出てきて、はみ出した本を直したりしながら見回りを続ける。
暖かい気持ちに満たされながら、気分よく歩いていると、裕幸はおずおずと横に並んできた。
「あの、出来れば、そばにいるだけじゃなくてその…もう少し近い距離感だともっと嬉しいです」
裕幸のいつになく持って回った言い方に、首をかしげる。
「もう少し近く?出来るだけお互い本音で話そうとか、そういうこと?」
「そうじゃなくて。…うー、わかんないかなぁ」
やや不満げに問い返されると、情けなくなる。
「ごめん、僕、ちょっと察しが悪くて…」
特に、恋愛方面はなおさら。
内心肩を落としていると、いつのまにか見落としていたらしい、何枚かの仕切り板を直しながら、裕幸がどっと疲れた声をだした。
「うん、知ってる」
恨みがましい目を向けられても、神妙にうつむいてただ耐えるしかない。裕幸が何年も気持ちを伝えようとしていたのに、気づかないまま無視していたのは事実だ。
裕幸はわざとらしくため息をついて、出来の悪い生徒に教えるかのように、一文字ずつはっきりと発音した。
「手をつないだり」
「うん」
「キスしたり」
「……うん」
「出来ればその先とかも健全な高校生としては興味があるんですが、亮さんは大丈夫?」
「……………そうだね、裕幸くん、そういえばまだ高校生だものね。やっぱりまだちょっと早かっ」
「わぁ!今のなし!じゃあ卒業してからでいいから、そういうことしたいんだけど、いい?」
告げられた内容がいまいち飲み込めず、亮は目を瞬かせた。
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