第10章

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「っダメじゃ、ないです…」 分かりやすく喜色の浮かんだ声に、ほっとして振り返ると、声以上に喜びを湛えた裕幸と目があった。ついさっきまで凍えそうに見えたとは思えないくらい頬が高潮し、口元がむずむずしている。 そしてついに我慢し損ねたみたいに、満面の笑顔になった。 晴れやかに笑う裕幸を見ていると、亮も胸の奥がくすぐったくなる。 自分の一挙一動でこんなにも分かりやすく喜んでもらえる。 裕幸の気持ちを受け入れると決断するまでは、彼のこうした反応が後ろめたくて苦しかった。 亮自身、自分の気持ちがとても裕幸と同等だとは思えない。だけど今は、まっすぐに好意をむけられて、それを素直に嬉しいと思える。 それはとても幸福なことだと気づいた。 ようやく少し回りに目をやる余裕が出てきて、はみ出した本を直したりしながら見回りを続ける。 暖かい気持ちに満たされながら、気分よく歩いていると、裕幸はおずおずと横に並んできた。 「あの、出来れば、そばにいるだけじゃなくてその…もう少し近い距離感だともっと嬉しいです」 裕幸のいつになく持って回った言い方に、首をかしげる。 「もう少し近く?出来るだけお互い本音で話そうとか、そういうこと?」 「そうじゃなくて。…うー、わかんないかなぁ」 やや不満げに問い返されると、情けなくなる。 「ごめん、僕、ちょっと察しが悪くて…」 特に、恋愛方面はなおさら。 内心肩を落としていると、いつのまにか見落としていたらしい、何枚かの仕切り板を直しながら、裕幸がどっと疲れた声をだした。 「うん、知ってる」 恨みがましい目を向けられても、神妙にうつむいてただ耐えるしかない。裕幸が何年も気持ちを伝えようとしていたのに、気づかないまま無視していたのは事実だ。 裕幸はわざとらしくため息をついて、出来の悪い生徒に教えるかのように、一文字ずつはっきりと発音した。 「手をつないだり」 「うん」 「キスしたり」 「……うん」 「出来ればその先とかも健全な高校生としては興味があるんですが、亮さんは大丈夫?」 「……………そうだね、裕幸くん、そういえばまだ高校生だものね。やっぱりまだちょっと早かっ」 「わぁ!今のなし!じゃあ卒業してからでいいから、そういうことしたいんだけど、いい?」 告げられた内容がいまいち飲み込めず、亮は目を瞬かせた。
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