第10章

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いつからか、告白されれば付き合おうとは決めていたけれど、正直そういった行為については全く想定していなかった。 あの裕幸が、自分に対してそういう欲を持っていたということに、まず衝撃を受ける。 そういえばつい先ほどもそんな類のことを言っていたかもしれない。だけどあのときは何でも受け入れてあげたい、という気持ちが先立って、きちんと考えられなかった。 でも、裕幸が望むのなら、と一応真面目に想像してみるも、真横で爽やかに微笑む好青年と生々しい触れ合いは、どうしても結びつかない。 「その…、僕、あんまり艶笑譚の類は読んだことなくて」 「エンショウ…?ごめん亮さんが何言ってるのか全然分からない」 「え?そうだよね、裕幸くんは専らミステリか時代物が多いしね」 噛み合わない会話に、お互い首を傾げる。 裕幸に軽く肩を押され、何となく見回りを再開しながらも、交わされる会話はちぐはぐだ。 「今オレは本の話はしていないです」 「うん、そのはずだったんだ。おかしいね。でも…あれ?どうして僕たちはここでこんな話をしてるんだろう」 一応閉館後とはいえここは職場で、そもそも今亮はまだ就業中だ。当初の予定では、仕事帰りに落ち合って、適当な店で受験の結果報告をするはずだった。 今さらながら状況の異常さに気づいて、亮は静かに慄いていた。裕幸に対して可愛い弟ではなく、ひとりの青年として向かい合おうと決めたはずなのに、しっかり流されてしまっている。 裕幸はそんな亮をちらりと見て、拗ねた声を出した。 「……亮さんがそういうことを考えたくないのは、よく分かりました」 こんなときだけ年下っぽさを出してくるのはずるい。そしてずるいと思っているのに、裕幸に悲しそうな顔をされると、つい機嫌をとってしまうのも、亮の性だった。 「そんなつもりは………違うんだ、多分裕幸くんは誤解している」 「何をですか?」 俯き少し目にかかる前髪の間から、上目遣いに顔を覗き込まれる。気が付けば促すように背を押された手は、いまだ背に添えられたままで、まるでエスコートをされているみたいな…。 人気のない狭い書架の通路はまるで二人きりの密室のようだった。亮にとってはついこの前まで頑是無い子どもだったはずの美青年に、半ば抱き寄せられているかのようなこのシチュエーション。眩暈を覚えずには居られない。
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