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「正直に付き合っていないことを伝えたんだけど、信じてもらえてなかったみたいだ」
どうしてそのような誤解を受けることになったのか。これまた心当たりはごまんとあるのでしようがない。
「気にしないで。君が控えめにアピールしてくれている間に気づかなかった僕の責任だから」
「でも、職場のひとにそんな風に思われたらイヤだよね。ごめん。今度からは周りにバレないよう気をつけるから」
新しく呼び名を昇格したばかりの恋人は、真摯な目で誓ってくれたけど、亮は見逃さなかった。
「……今裕幸くん小さくガッツポーズしてなかった?」
「してないしてない」
誠実そうに見える裕幸が意外とそうでもないことを、このごろとみに思い知らされている。目を細めてじっと見つめても、そらさずしっかりと見返してくるのだから案外ふてぶてしい。
それどころか真面目くさった真顔の裏で、若干にやけそうにすらなっていることに気づき、ひとまずこの問題は棚上げすることにした。
そういえば、大切な話があるのを思い出したのだ。
ちょうど見回りが終わりカウンターへ戻ってきたところだ。少し改まった話をするのにはふさわしいタイミングかもしれない、
「裕幸くんが無事に大学合格したら言おうと思っていたんだけど」
カウンター内部の所定の位置に懐中電灯を戻してから顔をあげる。裕幸は少しだらしなく天板の上に寄りかかっていたが、亮の視線を受けるととすぐさま背筋を伸ばした。
「はい」
「僕とルームシェアしない?」
裕幸はたっぷり十秒は沈黙した。ひょっとして聞こえなかったのかと、もう一度繰り返そうと口を開きかけたタイミングでようやく口を開いた。
「………ルームシェア?」
「あれ?意味知らない?」
「知ってますけど!どうして…」
尋ね返してくる裕幸は困惑も露だ。
無邪気に喜んでくれるものだとばかり思っていたので、予想外の反応に亮も戸惑う。
この勘違いは少々恥ずかしい。
「その、君がご家族といることに、少しだけ疲れちゃったみたいだから。ちょっとだけ離れて暮らすのも悪くないんじゃないかと思って。ちょうど僕も来年で社会人になって三年目だし、そろそろ実家を出る良いタイミングかな、と」
亮にしては破格の長口上で説明したのだが、なぜか裕幸は信じられないものを見るかのような目でこちらを見てきた。後ろに何かあったのかと思わず振り返って確認するが、いつもどおり壁面にずらりと書棚が並ぶだけだ。
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