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一方の裕幸は、ダンボール箱いっぱいに詰まった肌色のパッケージに目を白黒させていた。卑猥な単語が並ぶタイトルはあからさますぎてあんまり心惹かれないのだが…。
「よし、お兄さんがいろいろと教えてやろうじゃないか。青山はどういうのが好みなんだ?うん?」
無精ヒゲのおっさんはにんまりと好色な笑みを浮かべて、すっかりその気になっている。
裕幸は、恋愛感情に目覚めたときには、もうすでに亮のことが好きだった。
成長するにつれそれは肉欲を伴うものに変化していったので、好みの作品となると、当然男性同士の性を描いたものとなる。
とてもじゃないが、店長には言えない。
仕方なく、ダンボール箱の中から比較的無難そうなタイトルをいくつか選ぶ。
「この中なら、これかなぁ…」
「へぇ、お前、年上モノが好きなのかー」
言われるまで気づかなかったが、確かにどれも年上っぽいものばかりだった。それも、可愛い路線じゃなくて、しっとりと落ち着いた雰囲気の美女。
「ほんとだ……」
全然似てないのに、どことなく亮を彷彿とさせるところが、また情けない。
にやにやと下衆な笑みを浮かべる店長の能天気な顔を見ていたら、何だか無性に腹立たしくなってきた。不機嫌になってきた裕幸の何を勘違いしたのか、店長は取り繕うようにいくつかのDVDを裕幸のかばんに突っ込んできた。
「お前なに初心な女子高生みたいな反応してんの。AV嫌い?まさか童貞?」
男子校生は、こんなもので簡単に機嫌が直ると思われている。ひょっとして亮にもそう思われているのだろうかと思うと、ひどく侘しい。
「AVにはたまにお世話になってる童貞です」
「へぇ、童貞…えぇ!?マジで!?何で!」
自分できいておいて、信じられないとばかりに肩を掴んで揺さぶってくる。
その拍子に店長はDVDが入っていたダンボールを蹴倒した。せまい倉庫の床に、どぎつい彩色のパッケージが散らばる。
気まずい空気が立ち込める中、二人無言で拾って箱に詰め直す。
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