第11章

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「お帰り、にいちゃん!おめでとう!」 「ただいま。…こんな、大げさな」 「大げさなんかじゃないわよ。通塾、浪人なしで、地元の国立大学に合格!どれだけお財布にやさしいか分かってる?」 「……おめでたいのはそこなの?」 首をかしげる良裕にもっともだと頷いてやりつつ、裕幸も椅子を引いて腰掛ける。ほどなくして応接間兼書斎にこもっていたのだろう父がひょっこり顔をのぞかせた。 「おー、お帰り。準備出来たか?」 「ただいま」 「早く座って!腹減って頭おかしくなりそう!」 賑やかな家族に囲まれていると、否応なしに現実感が戻ってくる。頭の芯はどこかまだふわふわとしていたが、テンポ良く交わされる会話にも少しずつ慣れてきた。 カウンターの向こうで作業をしていた母が手を拭きながら食卓につくと、父が仰々しく切り出した。 「じゃ、今日は裕幸の合格祝いということで、」 「イクラ全部食べて良い?」 「これまで一年間、長かったと思うが」 「ネギトロも全部食べて良い?」 「お父さん、これ以上待たせたら良裕の胃袋が…」 「…もういい、好きに食べなさい」 「やったー!いっただきまーす!」 勢い良くかぶりつく良裕に苦笑しつつ、おのおの箸を伸ばす。 育ち盛りの男が二人いれば、豪勢な食事も瞬く間に嵩を減らしていく。 皆一様に晴れやかな顔をしていて、裕幸も穏やかな気分になる。手放しで褒められることも、弟からの無邪気な賞賛も、今日は普段よりは素直に受け止めることが出来た。 「あのねぇ、今日は裕幸のお祝いなの、分かってる?」 「だって兄貴の好物って、ほとんど俺の好物でもあるんだよ!」 「オレはいいから好きに食べろよ、良裕。オレは…まだちょっと胸がいっぱいで、そんなにたくさんは食べられないから」 母が良裕に小言を言うが、笑って取り成す。実際、気持ちが満たされすぎていてまだ夢の中にいるようで、食欲はあまりなかった。 「もう食べないの?」 「十分食べたよ、美味しかった。ごちそうさま」 それでもいつもより腹を満たしてから食事を切り上げ、二階の自室に戻る。 実際、今日は色々とありすぎて、ひどく疲れていた。濡れたまま長く外に居すぎたためか、少し悪寒もする。
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