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 前を歩く由美が丸山になにか文句を言っている。どうやら彼女たちは後ろから来た自転車に気づくのが遅れ、ベルを鳴らされたようだ。 「そこは車道側を歩いて女の子を守ってあげにゃあ、彼女もできんよ!」 「やれやれ。平田さんは本当に丸山くんに厳しいな」  自分はさらりと紳士的に振る舞っていながらも、櫻井は同じことを丸山に要求する由美の言動に苦笑いを浮かべる。その顔を横目にしながら優弦は、昔、自分に対して良く似た行動を取っていた人物を、櫻井から香ったミドルノートの中に思い出していた。  有名な尾道ラーメンの店の行列にならんで昼食を採ったのちに、今度は商店街へと足を踏み入れた。 「あっ、あれカワイイ!」 「ほら、櫻井さんみてみてっ、にゃんこがおるぅ!」 「ちょっと、あの店入ってもええですかぁ?」  古いアーケードのレトロな商店街に入るなり、由美は右へ左へと目についた店に吸い込まれ、一向に足が前に進まなかった。それに律儀に丸山も由美のあとを追い、櫻井はずっと半笑いのままだ。  優弦は櫻井の隣を歩いていると、とても不思議な感覚に陥った。櫻井は、鼻にかかった声で由美に呼ばれると、まるで父親みたいに少し面倒臭そうに彼女に近寄り、二言、三言、言葉を交わす。そして、いつの間にか優弦の横に何食わぬ顔で戻って、当たり前のように優弦に笑顔を向けてくる。 「あっ! ここ! 絶対に来ようと思っとったお店!」  由美がステップも軽やかに小さな店へと吸い込まれていく。丸山も由美の背中をついていき、優弦は店先に籠の中に並んでいる小さな瓶詰めを目にした。 「へぇ、これは全部ジャムなのか」  優弦の少し後ろで櫻井が声を上げて、そのまま優弦を追い越して入り口から店内を覗き込むと、 「すごいね。本当に色んな種類のジャムがある」  店の中に入り込んだ由美がこちらに振り返りながら、 「前にテレビでやっとったんですよ。ほら、広島は国産レモンの生産量も日本一じゃし、柑橘類が豊富だから美味しいジャムの専門店が尾道にあるって」 「それで平田さん、行きのサービスエリアであんなにパンを()うたんすか」
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