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 はあはあ、と息が上がり、心臓がどんどんと脈を打つ。でも、その大きな鼓動は走っているからなのか、櫻井に手首を掴まれているからなのか、優弦にはわからなくなっていた。  商店街脇の小路から、やがて海沿いに走る国道に出てきた。ちょうど歩行者信号が青になって櫻井はそこも走って渡る。渡った先には電車の線路があり、カンカンと踏み切りが音をならして遮断棒が下り始めていた。 「渡るよっ!」 「ええっ!?」  ぐっ、とさらに掴む手に力を入れた櫻井が、下り始めた遮断棒を潜って線路に入り込んだ。優弦も慌てて櫻井のダウンジャケットを右手で掴むと、その背中に引っつくように体を寄せて線路を横断する。反対側の遮断棒を少し持ち上げて櫻井は優弦を先に行かせると、自分も線路の外へと脱け出した。  その場で膝に両手をつけて呼吸を整える。ハアハアと新鮮な空気を肺の奥まで出し入れしながら隣の櫻井を見ると、彼も優弦と同じように息継ぎをしていた。  遮断機の音に被せるように列車が踏み切りを通過した。膝に手をつけたままでその列車を見送ると、やっと優弦は胸に手を当てて上体を起こした。 「急に走らせてごめんね、月見里さん」  先に呼吸が治まったのか、櫻井が前髪を掻きあげながら優弦に笑顔を向けた。その額にはうっすらと汗が滲んでいる。 「いえ。でも、いきなりどうして」  はあ、と最後に大きく息をついて櫻井に問いかける。 「ちょっとね。丸山くんに最後のチャンスをあげようかと」 「最後のチャンス?」 「実はね、彼は平田さんが好きなんだ」 「……えっ? 丸山さんが?」 「そう。あまり時間もないから、どうしても平田さんにこの熱い想いを伝えたい、って相談を受けてね」  優弦は意外に思った。由美は傍から見ていると櫻井に気があるのは明白だ。だが、敢えてその疑問は口にしなかった。自分がそれを伝えて、櫻井が今までとは違う視線で由美を見つめることを思うと、なぜか気持ちがもやっとしたからだ。 「途中でおれたちが隠れて、二人だけにしてあげると丸山くんに約束していたんだ。まあ、あとは彼の頑張り次第だな」
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