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「まさか櫻井さん。平田さんがおれに気があると勘違いして、丸山さんを彼女にけしかけたんですか?」  どうやら気がついたことは本当のようだ。櫻井はばつが悪そうに苦笑いをすると、 「丸山くんが彼女を好きなのは本当だ。でも、君にその気がなくても、平田さんが君に想いを告げるシーンなんて目にするのは嫌だったんだ」  子どものように言い訳をする櫻井に優弦は思わず、 「それはおれも同じです」 「えっ」 「……あっ、」  勢いで口をついた言葉はもう引っ込められない。慌てて櫻井から視線を逸らしても、真っ赤に染まっている顔を見られたら一目瞭然だ。案の定、櫻井は、 「君もおれと同じだってことか? 彼女がおれに告白するかもしれないって不安だったのか?」  その問いかけに耳の先まで火照るのがわかった。ますます俯く優弦に、 「こっちを見て、優弦。君もおれのことが好きなのか?」  地面についた膝の上で固く握っていた手を柔らかく包まれる。その手を取られ、なおも顔を覗き込んでくる櫻井から視線が外せなくて、優弦の瞳は恥ずかしさのあまりに涙で潤んできた。  (まばた)きをすると、落ちそうになっていた涙が長いまつげに弾かれる。微かに頬に散った水滴を、そっと櫻井が指で拭き取った。 「例え、彼女に好意を告げられてもそれには応えられない。……おれは女性とは恋愛できないんだ」  潤んだ瞳を見開いた優弦に櫻井が優しく笑いかけた。 「櫻井さん……、もしかしておれのことを……」 「すまない。君に嘘をついた。実は以前、君のお兄さんに会ったときに少し聞かせてもらった。本当に嬉しかったよ、君も同じだと知ってね」 「……いつからなんです? いつから、おれを?」 「そうだな、敢えて言うなら最初からかな。初めて君に声をかけたとき、まず顔がとても好みだったんだ。そして、会ううちに仕事に懸命に取り組んでいるところとか、客を第一に考える誠実さとか、弱っていたおれを看病してくれた優しさとか、とにかく内面も素晴らしい人だったから一気に君に惹かれたよ」  照れた笑いに目を細める櫻井の表情に嘘は見えない。
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