446人が本棚に入れています
本棚に追加
(櫻井さんもおれと同じ……)
今になって、急に櫻井の告白が理解できた。途端にどうしようもなく動悸が激しくなってくる。目の前の櫻井の顔をまともに見られるわけもなく、頭が真っ白で、とにかくこの場から逃げ出したくなった。ところが、そんな優弦に櫻井はあろうことか、
「優弦は? いつからおれのことを意識してくれたんだ?」
そんなことは聞かないで欲しい。でも、櫻井は優弦の手を握ってさらに顔を近づけてくる。また額がくっつくのではと思うと、もう心臓が喉をせりあがってきそうだ。
(お願いだから、そんなに見つめないで……)
櫻井の右手が優弦の顔に寄せられる。顎を引くこともできず、魔法にかけられたように固まっていると、急に櫻井が眉間に皺を寄せてポケットからスマートフォンを取り出した。
「もしもし?」
櫻井がぶっきらぼうに出ると、優弦にも聴こえるほどの甲高い声が空気を揺らした。
「もお! 櫻井さん、一体どこにおるんですかっ!?」
これは由美の声だ。かなりのおかんむりの様子が手に取るようにわかる。櫻井は優弦から手を離すと、
「どこって、どこだろ? ああ、そうだった。あの映画の舞台になった階段のある……」
「御袖天満宮じゃねっ! わかりました。今から行くけえ、絶対にそこを動かんといてくださいね!」
一方的に由美に通話を切られて櫻井がスマートフォンをポケットに仕舞う。そして優弦に由美の声が聴こえていたのがわかっているかのように、「まだ、向かってもいないのにな」
呆れた口調の櫻井に優弦も笑って応える。二人でしばらく笑いあったあと、櫻井が「そろそろ行くか」と、腰を上げた。優弦も立ち上がって膝や尻についた土埃を払っていると、優弦、と櫻井に声をかけられた。何気なく顔を向けると、櫻井は素早く優弦の唇を奪って離れていく。ちゅ、と響いた水音に頬を染める間もなく、櫻井に左手を取られると、
「さてと。これから姫のご機嫌を直しにいくとするか」
爽やかな櫻井の笑顔に戸惑いがちに応じて、優弦は繋がれた手の力強さを感じていた。
最初のコメントを投稿しよう!