(4)

20/21
435人が本棚に入れています
本棚に追加
/163ページ
***  もうすぐ広島インターが見えてくる。優弦は左側に車線変更をすると、静かな後部座席をルームミラーで窺った。  あれから由美たちと合流して、海沿いをそぞろ歩いた。そして最後にフェリーに乗り、対岸の向島へと渡ると、海を隔てて拡がる尾道の町並みを眺めた。  迫る夕闇の中、海岸の町や山の中腹に建つ寺院がライトアップされ、とても幻想的な風景が目の前にお披露目されていた。由美が、キレイキレイとはしゃぐ中、優弦は櫻井に誘われてさりげなく由美と丸山から離れると、左手をそっと握られ、町の灯りを写した光輝く穏やかな尾道水道を二人で並んで眺めた。  今、由美と丸山は後部座席で仲良く熟睡している。そして助手席の櫻井も眠そうに欠伸を噛み殺していた。  高速道路から市道に入ると、後ろの二人が目を醒ました。途端に由美が、「お腹が空いた」と言い、「近くに美味しい和風パスタの店がある」と、結局その店で夕食となった。食事も終わり、先に満面の笑顔の由美を、そして次に、由美に告白できずに落ち込んだ丸山を車から降ろすと、櫻井は大きく息をついた。 「やっとお子様たちがいなくなった」  櫻井の本心に優弦は思わず笑ってしまった。 「そうだ。この前の道を通ってくれるかい? あの海沿いの道。今日は月は出ていないけれど、もう一度見たいんだ」  優弦は、いいですよ、と返事をすると、いつもは真っすぐ向かう交差点を左に折れた。きっと以前に走ったときのことは、当時の体調不良もあって記憶が曖昧なのだろう。櫻井は流れる景色を初めて見るかのように追っている。  広島市から廿日市市に移り、目の前に大きなアーチ状の橋が現れた。そこに差しかかると、 「あれは宮島だな。ほかの島の町明かりも、とても綺麗に見えるね」 「櫻井さんは、海のないところで育ったって言ってましたね」 「そうなんだ。廻りを山に囲まれたところでね。親の仕事の都合で日本と海外を行ったり来たりしたけれど、どこも海どころか湖にも関わりがない地域だった。だけど、やっぱり海を見ると懐かしく思えるのは、自分のルーツが島国の人間だからかな?」  櫻井の軽口に優弦は小さく頷く。
/163ページ

最初のコメントを投稿しよう!