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だいたいのアルラウネは女性型だが、このアルラウネは茎、花の中が男性の顔になっていた。茎が胴、草を手足のようにして動かせるらしい。ほかのアルラウネたちは進んで喋らないのに、この種だけはまるで酒場で飲んだくれる中年のごとき口調であれやこれやと話しかけてくる。グリーン・ハウスのなかで退屈しているのかもしれない。
「まったく、兄ちゃんは普段はしっかりしてるけど、たまーに抜けたところがあるよな」
「そうかも」
あいにく否定できないアンリだ。
成績は悪くないけれど、たまに試験で点を落とすときは大概ちょっとした確認ミスだったりする。
魔法使いとしては致命的なことだ。
「おーおーおー、認めちゃって。いかんぜ、上級生になるんだからよ。《班制度》も今日からだろ?」
「詳しいね、アルラウネ」
「なんたって俺っちはここに生まれて三十年の大ベテランだからな」
茎を張り、草を曲げ、アルラウネは胸を張ったようだった。
「おれよりずっと先輩だ」
「おうよ。そんなセンパイから助言があるぜ、兄ちゃん」
「なに?」
「お前はもっとにこにこ愛想よくしてたほうがいい、黙ってると暗く見える。笑ってるとむじゃきでかわいく見えるから、それをもっとこう、ガンガン利用していくべきだ」
「は、はぁ…」
どんなすばらしい助言かと思ったら、想像の斜め上だった。
戸惑い、どんな反応をしていいかわからず眉根を下げるアンリだが、アルラウネはお構いなしに続ける。
「兄ちゃんはほっせーからな。もっとメシ食えと言いてえが、お前ガンガン戦うタイプにも見えないから、大人しく可愛くしといたほうが得があると思う。うん、ここで数々の魔法使いのひよっこを見て来た俺っちが言うんだから間違いない」
細いのは事実だ。トレーニングを積んでもさほど筋肉がつかない体質らしい。ただ、ご飯は毎食きちんと食べている。今日も水やりが終わり次第、朝食へ向かう予定だ。
なによりもっとも気になるのは“大人しく可愛く”という部分である。
「助言はありがたいし、年季が入ってるだけあって信憑性はありそうだけど――でも素直には頷けないよ。かわいくっていわれても、おれ、もう十六の男だよ?細身かもしれないけど、身長は百七十あるし――」
もっといえば、百七十五ある。まったくもって“可愛い”といわれるような体躯ではない。
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