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エピローグ
翌朝、アンリはベッドに寝そべったまま、ルイードを思いっきり睨み付けていた。
「し、信じられない。あんなことする?ふつう」
「するって言ってるだろ。お前はなにも知らないんだから、黙って俺に従ってればいい」
「嫌だ!あんな恥ずかしいこと、もう二度としないからな!ルイの変態!」
おそろしいことに、身体が軋んだようにまったく動かない。
グリフォンと対峙した翌日を思い出す身体の痛みだが、あのときは全身だった。いまは下半身が、しかもあのときより痛む気がする。普段使わない場所だからだろうか。
平然と偉そうにしているルイードだが、こう見えても反省はしているらしい。
いちおう、あらぬ体液に汚れたアンリの身を清めたり、乱れ乱れた寝間着を整えたり、ほんのわずかにだがアンリに睡眠時間を与えてくれたり――と、詫びのような行動を取っている。
先ほどなど、「水ちょうだい」と言うと、おとなしく指示に従い、魔法で飲み水を湧かせてくれたのだ。今までの自分とルイードの関係からすると、まったくもって考えられないことだった。
(悪くないなぁ、こういうの…)
むしろ、良い。すごく良い。
だからみんなこぞって恋愛をするのだろうか――と、十七歳にしてやっと気付く。
思わず口元を緩めていると、ルイードが不意に頬に触れて来た。
「なに?」
「いや?可愛い顔をしてるなと思っただけだ」
「…前から思ってたけど、よくそんな歯の浮くようなことが言えるよね。慣れ?」
それは、単純に、自分だったら恥ずかしくてしょうがないのに――という、関心混じりの問いだったのだが。
「嫉妬か?」
大真面目な顔でそんな風に問い返されてしまって、呆れるやら、恥ずかしいやら、遠回しの肯定に本当に嫉妬するやら――感情が忙しくなってしまう。
(こんなふうに心が大忙しなのも、恋愛ってやつなのかな…)
こんど、マギあたりに相談しよう、と思う。なにせマギには占いという手段があるので、この関係を隠し通せるとは思えない。ルイードは反対するだろうから、こっそりと決意する。
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