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「お前、街で会ったじいさんか」
「記憶力がいいのう、さすがベルクヴァイン家のご子息」
「え――」
どうも事情通らしいその翁の顔をじっと見つめ――アンリもやっと、その正体を思い出す。
(そうだ――喫茶店で話しかけて来たあの人だ…)
図書館にあった本について、興味を示してきた、深緑色のローブの翁。
今はぴしっと背筋を伸ばし、ローブではなく普段着らしいシャツを着ているので、すぐには気付けなかった。
「この方は、闇魔術研究界の権威でな。お前たちが噂していたのも、あの禁書が関わっているのではと勘付いて声をかけたらしい」
説明してくれたのはスイールだ。
話によると、この翁は闇魔術研究界の権威。そして、アンリを襲ってきたあの男は、その研究界に以前から目をつけられていたはみ出し者――つまり、闇魔術を不正に利用し、悪魔と契約を結んで多くの魔力を手に入れようと企んでいたらしい。闇魔術界でもマークされていたそうで、その話を聞いていたローレライとスイールにより、エリオルに呼び出されたそうだ。
「やはり、あの時点でもっと詳しく話を聞くべきだったのう」
「あんな怪しい登場で、誰がお前を信用するか」
「ちょ…ルイ!」
かなり目上だろう人物が相手でも不遜な態度を崩さないルイードを思わず制する。
一同の会話を笑顔で見守っていたフィンネルが、ふと「そういうの、もっとバレないようにやったほうがいいわよ」と釘を差すように告げて来た。
(そういうの…?)
意図が掴めず首を傾いで、はっとする。
そういえば、アンリはルイードと同じベッドで寝ているままだ。
その上で親しげにニックネームを呼んだものだから、見せつけているように思われたのだろう。
(危ない…これからはマリオットたちの目もあるんだし、本当に気を付けないと…)
同じチームというだけで、あんなに睨まれたのだ。実際くっついたと知れては、いったいどんな目に遭うかわかったもんじゃない。
アンリが震えているうちに、ローレライやスイールが捕えた男の処分や、今回の件における生徒たちへの説明についてを教えてくれる。だが、アンリにとってはルイードファンクラブの対応のほうがよほど重要問題だったので、ほとんどを聞き流してしまった。
(今まで先生の言葉に耳を貸さないなんてこと、ほとんどなかったのに――)
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