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すっかり話が終わったあとで我に返ったアンリは、がっくりと落ち込んだ。
放っておくと延々浮かれてしまいそうだし、恋愛一色の頭になりかねない。明らかにまずい。ますます気合いを入れねば、と拳を握る。
説明をするだけして、先生たちは帰っていた。
フィンネルも、仕事があるためいちど職員室に戻るという。
医務室からは、もう出て行っていいという。今日の授業については出席は任意とのことだ。
寮に戻るか、そのまま出席するか…と悩んでいるルイードに、アンリはおもむろに向き直った。
「ルイ、おれたち、距離を置こう」
「は――」
ルイードからみれば、両想いになってから早数時間、スピード離縁宣言だ。
爆弾発言をしたつもりは一切ないアンリに詰め寄りながら、思いっきりまなじりを吊り上げる。
「急にどうした、なんだ、なにが悪かった?あのじいさんに生意気な口を利いたせいか」
「そんなわけないでしょ。ただ、ルイと居るとおれ、成績下がりそうで…」
「そんなことで距離を置かれてたまるか!」
怒声を飛ばしながら、ルイードは勢いよくアンリの両腕を掴んだ。そしてアンリの顔を覗きこむと、幼子に言い聞かるような口調で言う。
「いいか?余計なことは考えるな」
「そうは言うけど、おれ、成績が…」
「俺が教える」
「ルイ、薬学は詳しくないでしょ」
「…じゃあ、参考になりそうな本、山ほど買ってやる」
「そんなの申し訳なくて受け取れるわけないだろ」
「……仕方ないな」
仕方なくはない。当たり前のことだ。
だが、ルイードは心底そう思っているようで、なんならまだ諦めきってないような顔をしている。
「じゃあ、せめて週四日で…」
「な、なにを!?」
「昨夜みたいなことを」
「週四日も!?」
想像もできないめくるめく世界に、アンリは目を剥いた。
「む、無理だよ。おれ、いま、立てないもん…」
ルイードは苛立たしそうに「もんとか言うな」と吐き捨ててから、そっとアンリの頭を撫ぜる。
優しいしぐさに、なんだか懐柔されている気がする――と思いながらも、そのぬくもりにアンリは目を細めた。
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