プロローグ

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 ――いやいやいや、嘘でしょ、ちょっと待って。  慌てて天に祈ったところで、現実の世界に時刻を止める方法などない。  否――高度な魔法術師であれば、あるいは可能なのだろう。しかし、いくら名門といわれる魔導学校の現役学生だろうが、たった五年しか魔法に触れていないアンリ・モンフォールには到底成しえない芸当だった。  そして、それは今同じ状況に陥っている仲間の二名――ルイード・マリウス・ベルクヴァインにも、マギ・リッテスルトにも同じことがいえた。  それはすなわち、「絶体絶命」を意味する。  なぜならば、アンリは今―― 「ギャォォォオオォォオオン!!!」  目を鋭い赤色に染め、高らかに咆哮するグリフォンに、まさに襲われているところだからだ。  グリフォンは、鷹の上半身と獅子の下半身を持つ生物である。恐怖と焦燥のあまり尻もちをつき、動けなくなっているアンリに覆い被さるように襲わんとするその姿は、成体よりかなり小さめだ。おそらく、子グリフォンだろう。しかし、それでも人間であるアンリより五倍は大きい。  ――どうしよう。こんなとき有効な術は…いや、自然に生息しているグリフォンって攻撃しても良かったんだっけ…!?自然生物保護法で禁じられてたらそれこそ人生終わる…!  頭の中では次々と言葉が浮かんでくるのに、実際はなにひとつ声にならない。  五年間、魔導学校で習った数々のことはなんだったのだろう――と反省している余裕まであるのに、現状を打破する解決策はなにひとつ浮かばなかった。  目の色を変えたグリフォンはギャオン、ギャオォンと何度も鳴き、アンリを襲おうとしているのか、あるいはただ暴れているだけなのか…傍目には判断がつかないほどバサバサと翼を振り回している。  ――今の隙に、逃げられるかもしれない…。  しかし、ここは森の奥深く。  生い茂る草花だけでなく、木々から落ちた枝や枯れ葉がびっしりと地面に敷き詰められていて、少しでも動けば物音を発してしまいそうだ。  そうなれば、グリフォンの注意がこちらに向いてしまうかもしれない――というより、何を隠そう、アンリが狙われているのはそれが原因だ。  森奥で暴れまわるグリフォンを発見したとき、驚きのあまり後ずさって枝を踏み、音を立ててしまった。過敏になっているグリフォンはすぐさまその音に反応して、アンリに向かって襲いかかってきた。
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