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はじめは逃げようとしたアンリだったが、獣とは人間の何十倍、下手をすれば何百倍も身体能力が高い。あっという間に追いつかれ、その恐怖で躓き、転んで…そして今に至っている。
焦燥感に苛まれたまま、目だけを動かし、チラと仲間のほうを見やった。
グリフォンの背後、数メートル離れたところに、マギが居る。こんな状況でも、いつもと変わらずふわふわの金髪が愛らしく、天使のような容姿だ。しかし、いつも天真爛漫なその表情はこわばり、かたずを呑んでこちらの様子を伺っているのがわかる。
そして――と、もう一人の姿を探そうとして、アンリは焦った。
どこにも、もう一人のクラスメイトが居なかったからだ。
――あのベルクヴァイン家の御曹司、どこ行ったんだ…!?
目立つ長躯。派手な赤毛。あんな存在、森奥で身を隠せるとも思えない。
しかし、目だけで探れる視界の範囲内にその姿は見つけられなかった。
――まさか、逃げた…とか…?
とてもそんな暇があるようには思えなかったが、彼は優秀な生徒だ。有り得るのかもしれない。助けを呼びにいってくれた可能性だってある。
――でも、そんな、見捨てるような真似…。
アンリの思想がどんどんと同級生を責める方向へ向かい始めたとき、
「フゥゥゥウッ、ギャアォオオオオォォオン!!!!!」
突然、グリフォンが今まで以上に地鳴るような雄叫びをあげはじめた。
アンリは、びくりと身を竦める。
その拍子に尻に踏んでいたらしい小枝がパキ、と小さな音を立てた。それに気付いたのか、どうなのか――グリフォンの眼光がまたしてもアンリを射抜く。
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