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01 寮の朝
枕元でまばゆい閃光がピカピカはじけたのが、落とした瞼の向こう側に見えて、アンリ・モンフォールは目をさました。
「……朝か……」
もぞ、と布団から腕を出すと、外気に触れた手が冷えていく。
春を迎えたアリオネス国だが、早朝はまだ薄暗く、寒い。
それでもアンリは木製のベッドを軋ませながら起きあがった。
同時に、枕元で強い発光を繰り返す石に「止まれ」と命令するのを忘れない。
魔力を持った石は、魔法をかけることによって、発光したり、熱をもったりすることが出来る。時間指定の魔法を付加すれば強い発光による目覚まし時計扱いが可能で、それはここ、エリオル男子魔導学園に通うほとんどの生徒が真っ先に覚えたがる魔法だった。
アリオネスは魔法が発達しているぶん科学技術の進歩がすこし遅い。それでも電気は通っている。だが、魔法で発光させるほうが、自分の立場――すなわち、魔法使いの見習いであること――を認識できるから、ここの生徒たちは好んで使いたがった。
アンリの場合、自分が魔法使い見習いであるという自認には無頓着だ。ただ、魔法があまり得意ではないので、勉強がてら積極的に使うようにしている。
寝ぼけた頭でそんなことを考えながら、アンリはさっさと寝間着を脱ぎ、制服代わりのローブを着た。黒いローブの縁に、銀色の精巧な飾りラインの刺繍が入っている。五年生の証だ。
――そうだ、五年生になったんだ。
このローブを羽織るのは、今日がはじめて。
昨日まで、このラインが緑色のローブを着ていた。それは四年生の証だ。
今日からは銀色となる。そう、アンリは今日、進級の日を迎えていた。
新品のローブはほつれも焦げもなくピカピカで気分が良い。寝ぼけていた頭も、だんだんしゃっきりとしてくるようだ。
新品ローブの上から深い藍色のストールを羽織り、アンリはそっと自室を抜け出した。
昨日――すなわち四年生まで、二人部屋に住んでいたので、そのときの癖だ。エリオル男子魔導学院は全寮制である。だが、個室は上級生の五年、六年にしか与えられない。四年生までは二人部屋だ。
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