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植物の実だと信じて疑わなかった『ガリガリ』は、実際は乾燥させた『昆虫の卵』であった。それもとんでもなく凶暴な肉食虫で、牛や馬、時には人間さえも、その肉はもちろん骨まで食べ尽くしてしまうほどだと言う。とある部族の人間が、この恐ろしい虫の卵が放つ芳醇な香りに魅せられ、それを乾燥させスパイスとして料理に使ったところ、言葉を無くすほどの美味である事を発見した。幸いだったのは、この部族は信仰上の理由で、肉を一切口にしなかった事だった。
通常『ガリガリ』の成虫は、野生の動物の身体に卵を産みつける。『ガリガリ』は、『肉』の持つアミノ酸を始めとする成分と熱によって孵化をするのだ。
それに気づいた彼らは、敵対する部族に親交の証と偽って「最高のスパイスだ」と言って『ガリガリ』を贈った。肉を主食としていたその部族は、半年も待たないうちに全滅した。強靭な生命力をもつ『ガリガリ』は胃酸に溶ける事もなく、人間の胃の中で孵化・成長をし、やがて胃を突き破り、その人間を食い殺してしまうのだ。
「コレが『ガリガリ』を肉料理に使っちゃイケナイ理由だったヨ、真鍋さん……」
異国の地から伝えられる衝撃の事実を、真鍋はまるで他人事のように聞いていた。
目の前が暗くなっていくのは、ショックからか、それともこの腹を刺すような胃の痛みからなのか。
受話器から真鍋を呼ぶワンさんの声は、もう彼には届いていなかった。
※ ※ ※ ※ ※
「ここ、ここ。私のお気に入りの店。わぁー、今日もたくさん並んでるー」
「えー、超楽しみなんだけど。ハルカのおススメなあに?」
「もちろん『ガリガリBBQ』! タミもアキも絶賛してくれたよー」
『準備中』の札が掛かる『NABE'S KITCHEN』の扉。
だが店内には、店主である真鍋の姿はない。
その身体は、『ガリガリ』に全て食べ尽くされてしまったのだ。
ガリガリと、音を立てて……。
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