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今ひとつスッキリしなかったが、大量の『ガリガリ』のスパイスを購入して『NABE' S KITCHEN』に戻った真鍋は、早速新メニュー開発に向けて厨房に立った。
カウンターに次々と並んでいく料理の数々。野菜や魚をメインにしたそれらはどれも『ガリガリ』のグリーンが映え、味も申し分ない。しかし、真鍋にはどうもピンと来ない。
「ワンさんはああ言ったけど……」
自分の料理人としての舌の勘を自負している彼が、ワンさんの忠告を無視して『ガリガリ』を肉料理に試してみるまでに時間は掛からなかった。
するとどうだろう。真鍋の想像通り『ガリガリ』を使った肉料理は、素晴らしい味に仕上がった。スパイスはより一層香り高く、安い豚コマが信じられないほどに柔らかく味わい深くなり、その旨さに感激し震えさえ起きる程だった。
翌日からすぐに、『ガリガリ』をふんだんに使った『ガリガリBBQ』の新メニューが書き加えられた。チキン・ポーク・ビーフの三種類から選べるBBQは、どれも常連客から大好評を得て、彼等のクチコミで新たな客もグンと増えた。あっという間に連日店の前に行列が出来るようになり、地元の情報誌に『ガリガリBBQ』と『NABE' S KITCHEN』の記事が大きく取り上げられると、更に行列の長さは伸びていった。
「あれほど言ったノニ、肉料理に使ったネ!」
忠告を守らなかった事の後ろめたさから、ワンさんのお店から遠ざかっていた真鍋だったが、底をつきそうになった『ガリガリ』を再び仕入れる為に再び顔を出すと、開口一番に怒鳴られた。どうやら情報誌に掲載された記事を読んだらしい。
「なんともなかったか?」
「全く。逆に『ガリガリ』のお陰でウチは大繁盛さ」
心配するワンさんに、真鍋は上機嫌で答えた。
「きっと現地の人は、肉料理に使うとあまりにも美味しくて『ガリガリ』が品薄になってしまうのを恐れて、わざと秘密にして『使うな』なんて言ったんじゃないのかな」
笑う真鍋に、不安顔のワンさんは
「来週またインドに渡るんで、詳しく聞いてクルからネ」
と、使ってはいけない理由が分かるまでは、メニューから外す様にと釘を刺すが、トップメニューの『ガリガリBBQ』を外せる訳がなかった。
「そこをなんとかワンさん、常連のよしみで頼むよ」
渋るワンさんに多額のチップを握らせ、在庫分の『ガリガリ』を買い占めると、真鍋はホクホク顔で帰って行った。
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