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プロローグ
恋人の熟睡姿を見ながらも、偶に思い出しては胸が痛む。どうしてこうなってしまったのか。どうして、繋がってしまったのだろうか。体だけなら諦めがついた。脅されてなら、心が壊れればよかった。
なのに適当にテーブルに置いた高級眼鏡の雑な扱いも、いっつも横を向いて片手をあげて眠る癖も、鼻を摘まんでも起きないほど疲れているその姿も、隙あれば俺の布団に入ってくる無意識の行動も憎めない。
最初さえ間違えなければ、俺はお前を上手に離してやれたのに。
捉えたと思えば遠ざかり、捕まえたと思えば可哀想で逃げしてしまう。
それなのに俺たちは離れられない。糸を垂らして蝶を待つ。
蝶は蜘蛛を友人だと、触れたいと思っていた。信じていたから、きっと糸に触れても彼は何もしてこないと安心していたのだろう。それを食べた。――けれど。
ひらひらと舞う蝶に騙されたのは、蜘蛛の方だ。
それをいつか、証明してやる。熟睡している恋人の唇に口づけた。
今、背中に爪を立てたら流石に気づいてくれるかもしれない。
ゲームにも似た感覚でしか、自分を守れない。けれど、愛おしいんだよ。
滑稽で一人笑いながら、その温もりから離れた。
俺達のきっかけは、そう。強姦だった。
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