一、

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(それが今じゃ……恋人か)  自転車に跨り、坂を下りながら頭が痛くなった。仕事場までは坂を下ってすぐある駅の中のヘアサロンだ。 仕事場から近くだが、安いし築30年で見た目はボロボロだの木造アパートに住んでいる。中は意外とリフォームされていて住めなくはない。母親が亡くなって、母方の祖父に育てられたが高校卒業間近に亡くなり身内はいない。なので住めば都、文句は無かった。  俊也が転がり込んでくるまでは。 「おはよーざいまーす」 「ちゃんと言いなさいよ。下品よ」  坊主頭でいかついサングラスをしたジジイが、クネクネしながら俺の言葉に口を尖らせた。 お洒落で清潔なサロンに、テロっテロのシャツにヤクザの風貌のオネエ言葉の男がいるのは似合わない。 「うっせーな。眠いんだよ」 「貴方っていつも寝不足よね。そんなに彼氏、毎日せまってくるの?」
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