一、

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「ああ、俊也の父親な」 「貴方に話があるんですって。夜、俊也くんに気付かれないように会えませんかって」 「……だりぃな」  俊也の父親は、理事長である厳格な祖父とは違い、穏やかで優しそうな人だ。だが、流星の母親の死亡の際、病院の不手際があったのをいつまでも気にしていて流星に強く出て来れない臆病な人でもある。 不手際と言っても、母親のナースコールが壊れていたというだけで、別にコールを鳴らしたのかも分からない。  鳴らしていたら間に合っていたかもしれないと、『たられば』な話で蒸し返すので面倒な相手だった。 ずっと苦しそうだった母親が、やっと眠れたのだと思っているので、攻める気持ちは何もない。が、俊也が懐いている手前、なかなか向こうとも縁が切れないのは煩わしい。 「でも大切な恋人の父親なんでしょう。頑張りなさいよ」 「大切な……恋人、ねえ」  その言葉に、吐き気が込み上げてきたのを、上に煙を吐く形で誤魔化す。それ以上は何も言えなかった。 「ねえ、貴方って」
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