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『お前、あれ、あそこ。ちょっと上から修繕して来いよ』
『えー。屋根に登れる場所ってあります?』
『知らねえ。自分で探せ』
尻を蹴ると、渋々ながらも窓や押し入れの上から天井へ行けないか探し出す。
それを煙草を吸いながら、高みの見物して笑っていた。
その時は、美容師の資格のために専門学校に行くことも決まっていたし、店長の店でバイトしながら手習いする予定で、金髪だったりオレンジ頭だった流星の髪も落ちついた茶髪になっていた。
『で、お前そろそろ帰れよ』
『なんでですか。一緒の卒業を祝いましょうと。実はこっそりシャンパンを』
『今から女と会うんだよ』
雨漏りのする部屋で小さく何かが壊れる音がした。
ぴちょん、とてん、とてん、ぴちょん。
腐敗した板から零れ落ちる滴が、下に用意されている更にとてんとてんと落ちている。濁った汚い水が少し溜まった皿が、部屋の隅に置かれている。
それまで明るい笑顔だった俊也の顔が、雨の夜のように表情を曇らせる。
その顔に背を向けて、殻になった煙草の殻を潰した。
『……酷いね。俺がいるのに行っちゃうんですね』
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