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その時、雨で濁った窓ガラスに、みっともなく足を開く自分の姿が映っていた。
動けない姿で食べられていく。抵抗しても縫い付けられて、逃げ出そうとしても動けない。
その情けなくみっともない姿に、心は蝕んでいく。
*
「あの、りゅ、流星さん」
「……あ?」
「もうすぐ休憩終わります」
火傷しそうなほど短くなった吸殻を口から落すと、目の前には千里が立っていた。喫煙所なんて匂いが嫌だろうに無理して入ってきたのだろう。少し膨れ面で、緊張しているのも伺える。
「雨も降ってきますし、戻りましょう」
「母ちゃんみたいだな」
にやりと笑うと、今度は真っ赤な風船みたいに飛びあがって、なかなか面白い反応を見せてくれていた。
「ちょっと似てる。俺の母ちゃんもお前みたいにいつものんびりしてさ」
「のんびりなんてしてないです! テキパキ動こうと思ってます」
必死で言い返してくる千里にケタケタと下品な笑いで対応していたら、その向こう側で先ほどの蜘蛛が一本、糸を伸ばしているのが見えた。
「流星さん、聞いてます?」
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