一、

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 季節を感じられない、そんな朝が一番嫌いだった。 季節は移ろうのに、それはゆっくりで。急に明日、秋になります。春になります、と宣言してから変わったりしない。ゆっくりと色が褪せて秋になり、ゆっくり枯れて冬になる。  じゃあ今は、ゆっくりと暑くなっていく期間で、春ではないし夏なんてまだ先。中途半端な時期が一番不快で、嫌いだった。こんな時期が上手く体が調節できなくて体調を崩しやすい。それでも、トラブルや、心を不快にさせる要件を持ってくる人よりもましなのかもしれない。 「おーい、俊也、朝だぞ、朝」 「うーん。あと十五分」  甘えた声でむにゃむにゃ呟くと、布団を深く被ろうとする。それに苛立ち、流星は思い切り布団を剥ぎ取り押し入れに突っ込んだ。修也の『あと〇分』発言は、もう貯金全部使ってしまっている。それほど毎朝何回も発している。 押し入れを勢い解く閉めると、寒そうに両肩を抱きながら恋人が俺を見上げている。 「りゅーせー。布団はすぐに畳んだら駄目なんだよー」 「じゃあさっさと起きれ。あと15分発言はもう二度目だ。使いきってる」  ころんと足元に転がった大男を足で転がすと、流星は台所へ戻っていく。
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