一、

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「ったく。お前、それでもホント、鷹森病院の御曹司かよ」  フライパンからベーコンエッグをフライ返しで剥ぎ取ると、皿の上に乗せる。  寝室から頭を掻きつつ眠たそうに歩いてきたのは、鷹森俊也。流星の一つ年下で今年二八歳。眼鏡にオールバック、おまけに白衣。尚且つ切れ長の瞳にすらりとした身長。昔からよく知っているが、生まれながらの王様気質なのか、いつも取り巻きを従えていた。  本人は柔らかい笑顔を常に携えていて、甘い声で老若男女問わず騙す質の悪い男だ。  恋人の家では玄関で靴下を脱ぎ捨てるようなだらしない姿に変貌する。 「御曹司、ねえ。御曹司ならもう少し仕事少なくしてほしいよ。過労で死んでしまう」 台所に立つ流星の横に立って肩に顎を乗せようとしてフライ返しを振り回され、阻まれる。 大げさに肩を落として上目遣いをしてくるので、足でひらひら蹴散らす。 子犬の振りをした狼の分際で、甘えてくるのは虫が良すぎる。 「昨日も遅かったな」
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