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「白石さん、まだいたの? 暗くなる前に帰りなさいね」
美術準備室から美術室を覗き込んできたのは、美術部の顧問でもある牧田先生だ。一応私立のM美大出身で、私の唯一の味方でもある。
「はあい。……あ、牧田先生。そういえば、今日大きな立像が送られてきましたよね? あれって何なんですか?」
「ああ……、あれね。今準備室の方に保管したんだけど。見てみる?」
私は頷きを返すとぱたぱたと音を立てて牧田先生がいる準備室のほうへ向かった。
狭くて埃っぽい準備室の両脇には大きな戸棚があり、球体やら立方体やらの小物の石膏が並んでいて、反対側には美術関連の資料がずらりと並んでいる。その一番奥に布がかけられて大きな塊が佇んでいた。
「なんなんですか?」
「う~ん。私もどこからどういう理由で送られてきたのかよく分からないんだけれど。見たところヘラクレスの全身像みたいなの。男性教諭にお願いしてなんとかここまで運んでもらったんだけどね」
牧田先生は腕を組んで、う~んと考え込んでしまう。その時、廊下から教頭先生が牧田先生を呼ぶ声が響いて、私たちは顔を見合わせた。
「まあ、とりあえず明日どうするか考えましょう? 受験にこれといって役立つとは思えないけど。全身像なんて凄く珍しいから。さ、早く帰りなさいね」
牧田先生はそう言い残して、片手をひらりと振り廊下へ出て行ってしまった。私は先生たちの話し声が遠くなっていくのを聞きながら、一人準備室で布に覆われた怪しい物体を眺め、腕を組んだ。
「ヘラクレスの全身像? 聞いたことないなぁ……」
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